国内広告業界の「なれ合い体質」が露呈した形となった東京五輪・パラリンピックのテスト大会関連業務を巡る談合事件。独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で東京地検特捜部と公正取引委員会に家宅捜索を受けた多くの企業が、調べに対し「談合の認識はなかった」と説明している。談合の成立についての企業側と捜査当局との「認識のずれ」が生じているのはなぜなのか。
独禁法が規制する入札談合などの行為を企業が公取委に自主申告した場合、課徴金が減額される課徴金減免制度(リーニエンシー)の対象となる場合がある。公取委の調査開始前に最初に申告した企業は刑事告発と課徴金が免除されるほか、2位以下も課徴金が5~60%減免される。
平成29年に発覚したリニア談合事件では、独禁法違反と認定されたゼネコン4社のうち2社が不正を認めて自主申告し、課徴金が減額された。
今回の事件で談合が疑われているのは、テスト大会の計画立案支援業務の一般競争入札。30年に計26件実施され、広告大手「電通」や業界2位の「博報堂」など9社と、うち2社による共同事業体が落札。総額は計約5億4千万円だった。
ただ関係者によると、今回、家宅捜索の対象となった8社のうち電通や、電通と同じく5件を落札したイベント制作会社「セレスポ」、番組制作会社「フジクリエイティブコーポレーション」など複数の企業は事実関係を認めつつ、談合の認識は「なかった」と否定。リーニエンシーを活用する企業も広がっていないとみられる。
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独禁法が定める「不当な取引制限」は、各企業が独自に判断し、結果的に行動が一致した場合などには成立しない。特捜部と公取委には、入札に関し各企業間で互いの行動を拘束する「事前のやりとり」があった、という立証が求められる。
カギを握るのが、案件ごとに企業名が割り振られた「リスト」の存在だ。
関係者によると、リストは発注方法が決まる前の29年から電通が作成し、更新を続けていたとされる。入札が行われる直前の30年春には、大会組織委員会と電通で共有。参加企業のほとんどがリストを目にしていた可能性があり、実際の入札では、ほぼリストの通りに各企業が応札していた。
発注を取り仕切ったとされる組織委大会運営局の元次長は、リストについて「実績のある企業をリストアップしたものだ」と周囲に説明。談合の意図を否定しているが、検察幹部は「(入札の)結果をみれば、どういう合意があったかが分かる。合意の証拠と結果が一致していれば、立件しやすくなる」と、自信を見せる。
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一方、ある企業関係者は、今回のテスト大会関連の入札には各競技団体の意向が強く反映され、時間的制約もあったと強調。「弾薬を扱う射撃競技などのように、競技大会の運営には特殊なノウハウが必要」とした上で「どこが入札に参加するか、という合意はあったとしても、他の案件に応札しない、という合意はなく、競争は制限されていない」と主張する。
8社のうち1社の幹部は、企業ごとに担当できる競技が実質的に限られていることから「入札に穴が開かないよう分担しようという気持ちはあったが、談合ではない」と話した。
これに対し、検察幹部は「得意な企業が応札するなど、独禁法違反事件では(入札に関する)一定のルールなどがあった場合、処罰対象となってきた」と指摘する。
独禁法に詳しい弁護士は、今後の捜査について「各企業間で、どのようなやりとりが事前になされたのか。客観証拠をどこまで収集できるのかが重要になる」と指摘している。(吉原実、桑波田仰太、石原颯)