「きれいに染まってくれよ」。京友禅の生地の地色を染める「引染(ひきぞめ)」の工程。「共和染色工業」(京都市中京区)の7代目、早川茂さん(58)は真っ白な生地を「伸子(しんし)」と呼ばれる棒でのばし、引染の準備に余念がない。淡い青、深紅、紫―。頭上には、鮮やかに染め上がった長さ約13メートルもの反物がグラデーションを織りなす。
染織品を代表する京友禅の着物。発祥は江戸時代にさかのぼり、今も正月や成人式といった祝い事を華やかに演出する。その反物が完成するまでにはおよそ20もの工程を重ね、一分野ごとに専門化していることでも知られる。
中でも、地色を生み出す引染は着物の印象を決める重要な作業の一つ。早川さんは客の好みに合う色を作り、生地の上で刷毛(はけ)を手際よく動かしていく。
染め上がった生地は艶っぽく、まるで命を吹き込まれたよう。「多くの人に着てほしい」。色むらを防ぐため、風量や湿度が管理された工房は冷え冷えとしているが、早川さんの思いを宿した反物が見る人の心を温かくする。(写真と文、渡辺恭晃)