私の名字(大内)はアルファベットで表記すると「OUCHI」である。英語で「痛い」を意味するOUCH(アウチ)につづりがよく似ている。
子供時代を米中西部オハイオ州の田舎町で過ごしたことはこのコラムでも何度か書いたことがあるが、そのころは学校の出欠確認でいつも「アウチ」と呼び間違えられていた。何度訂正しても直らなかったから、自分の名前は米国人にはよほど発音しにくいのだろうと思っていた。
蛇足ながら、日本に帰国してそれを友人に話したら、以後、あだ名がアウチになってしまった。
そんなわけで、ワシントンに赴任する際は「また言い間違えられるのかな」と思っていた。
だが、意外にもここでは初対面でもたいていは正しく名前を発音してくれる(あるいは、しようとしてくれる)。人の出入りが少ない田舎町と違い、連邦機関が集まるワシントン近辺は、人種を問わず、学業優秀な人が全米から集まる。外交やビジネスで駐在する外国人も多い。なじみのない発音にも慣れているのだろう。自分の名前を訂正しなくてよいのは気が楽だ。
それでも昨年、取材で約四半世紀ぶりに訪れたオハイオのホテルで「アウチさんと読むの?」と聞かれたときは、懐かしい気持ちになった。(大内清)