中学生の時からのミュージカルファンである。舞台も数々見てきたが、私にとってはミュージカル映画が欠かせない。先日、書店で見つけたこの新書は「なぜ突然歌いだすのか」という副題が目に留まった。確かに不思議で、そんなアプローチに興味を覚えた。
バラエティー番組でタレントさんがミュージカルの、突然歌いだすのに違和感を覚えると話していたが、それは舞台や映画と客席のお約束であり、疑問には思ってもあえて追及しなかったのではないか。そこで音楽社会学の専門家が歴史からひもといていく。
ミュージカルは「語ればよい台詞を歌って告げるジャンル」で「突然歌いだす」、つまり「台詞と歌の切り替えの際に何らかの『段差』を感じる」のが違和感の源だと著者はいう。音楽劇ジャンルの根本問題「言葉対音楽という問題を不可避的に内包している」のだ。
だから、その「段差」を感じさせない工夫に作り手は努力してきた。『ショウ・ボート』で提示された新たなミュージカルはロジャースとハマースタインによる『オクラホマ!』で「物語の筋と歌、ダンスのナンバーを一つに統合する形態を実現した」という。
この本はその時代の代表作が次々に出てきて楽しい。『ヘアー』に始まるロック・ミュージカルが舞台でワイヤレスマイクを使える環境にない時代、その大音量をどう処理したか。『トミー』や『ジーザス・クライスト・スーパースター』を見たときの感激もよみがえった。これまで見た東宝ミュージカルから劇団四季、そして多くのミュージカル映画が次々に脳裏をよぎる。
ミュージカルはエンターテインメント。この本でより深く知ることができ、今年も存分に楽しみたい。
堺市南区 納谷昭一郎(83)
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