年の瀬記者ノート

裁判員裁判 法廷で語られる言葉 背景の思いや課題映す

産経ニュース
横浜地方裁判所
横浜地方裁判所

入社1年目の新人記者として神奈川県内の事件、事故の取材を重ねる中で、大切なテーマに気づかされたのが裁判員裁判だった。昨年に起きた傷害致死事件は全国的に注目されるような事件ではなかったが、法廷で語られる言葉に耳を傾けると、事件を取り巻く人々の思い、背景に考えさせられ、そうした情報を求めて傍聴に訪れる人たちの姿を目の当たりにした。(橋本愛)

初めて取材した裁判は今年6月に横浜地裁で開かれた東名あおり運転死傷事故の差し戻し審判決公判だった。この日の横浜は雨。注目度の高い裁判の判決とあって横浜地裁には多くの傍聴希望者、報道関係者が集まり、法廷内には緊張感が漂っていた。

懲役18年の判決言い渡しと判決理由の読み上げは約1時間に及び、被告や裁判員、法廷の様子など、目と耳に入る情報をひたすらノートに書き留めた。閉廷後は記事を執筆する先輩記者の指示を受けながら被告の弁護団による記者会見の対応、本社との連絡に走った。周りを見て何かを考えるというよりも、一日が飛ぶように過ぎていった。

慌ただしく日々の仕事に追われて数カ月がたち、先輩記者の一言。「裁判は一度、じっくり見ておくといいよ」。裁判の予定が書かれた開廷表を見て選んだ傷害致死事件の裁判員裁判は、初めて腰を据えて見る裁判だった。

被告の30代の男が知人男性に貸した金が返済されなかったことで腹を立て、暴行の末に大けがを負わせて死に至らせたとされ、公判中に読み上げられた被害者の母親の調書が印象に残っている。

「順番が逆でしょう。なぜ私が息子(の死)を見届けなければならないのですか」。息子は中学時代に生徒会長を務め、米国でのホームステイ経験もあった。誕生日には「おめでとう」とLINEをくれる優しい子だった。どんな事件にも被害者と、その人生に関わる人の存在がある。人生を奪う事件の重さを感じた場面だった。

傍聴した際、もう一つ印象に残ったことがある。傍聴席に座る人々の多様さだ。大学がまだ夏季休暇中だったこともあるかもしれないが、高い年齢層の人に加えて、明るい髪色の若者ら幅広い個性、世代の人がいた。老若男女が関心を持ち、傍聴に訪れていたことが新鮮な発見だった。

定期的に裁判を傍聴しているという30代の男性会社員は新型コロナウイルス禍のリモートワークで空き時間が生まれ、昨年6月から横浜地裁を訪れるようになった。最初は裁判に関する知識はなく気構えたが、「気軽に法廷に入れた」。関係者の証言、調書の読み上げに耳を傾けながら「社会で実際に起きていることを体験した人の、本当の言葉を生で聴ける」と意義を感じているという。

「とんでもないと思うような事件でも、被告にも人生があって、事件のバックグラウンドがある。それを救済できない社会に疑問を感じた」。今月、地裁が開催したイベントで裁判員経験者の男性が語った言葉だ。どんな事件にも背景があり、目を向ければ、さまざまな課題がにじむ。

伝え方を工夫すれば、事件だけではなく、その背後にある課題にも人々の関心が向くきっかけを作ることもできるのではないか。日々起こる事件事故の一つ一つの全てに時間をかけて取材することは困難かもしれないが、この課題意識を大切にしながら、向き合い方、切り口を模索していきたい。

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