今年から導入された現役ドラフトは、オフの大きなイベントの一つとなった。
出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化させるための制度で、各球団が保留者名簿の中から、ドラフト対象となる任意の2選手をリストアップし日本野球機構(NPB)に提出する。
各球団はリストから希望選手を申告し、希望球団数が最も多い選手を提出した球団が最初の指名権を獲得。最終的にはリストから全球団が1人は獲得し、1人は取られるというルールが設定された。
2人まで獲得できるシステムだったが、今年は全球団とも1人の獲得で指名を終了。その過程は公表されず、もちろん中継もない。ドラフト終了後にNPB担当の記者に配信された結果一覧のメールが第一報だ。社内で開封した記者のPCの周囲には多くの編集スタッフが集まり「オコエが巨人!」「え、陽川がリストに入っていたの?!」など、それぞれが反応し、関心の高さがうかがえた。
選ばれた選手の心境はどうか。出場機会が減少した選手や直近の数年で結果を残せなかった選手の多くは、シーズン終盤には戦力外通告を覚悟している。その状況下で所属球団との契約を更新できれば「来年も野球ができる」と安心する一方で、今年に関しては「現役ドラフトのリストに入っているのでは」と思った選手もいただろう。
中日からDeNAに移籍した笠原は入団会見で「現役ドラフトがあると聞いたときから、選ばれることはあるなと思っていた」と告白。移籍を通達された直後は驚きと同時に「やはりきたか」と感じたという。楽天から巨人入りしたオコエも「メディアの間で自分の名前が挙がっていた。やっぱりそうなんだという気持ち」と振り返った。
〝選ぶ側〟の球団側も難しい駆け引きだった。ヤクルト・小川淳司ゼネラルマネジャーは「いい選手を取ろうと思ったら、いい選手を出さないといけない。非常に難しさがあった」と振り返った。DeNAの萩原龍大常務取締役チーム統括本部本部長も「どんな選手がリストに上がってきて、どう1位指名されてくるのか」と悩んだという。
選手は前所属球団では厳しかったであろう立場から環境を変えて心機一転、再スタートの場を得た。ロッテからヤクルトに移籍した成田は「本当に必死になってやるだけ」と切実に語った。注目された現役ドラフトの成果は〝選ばれし12人〟にかかっている。(湯浅大)