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作詞家・松本隆<26> 詞先か曲先か 歌の成り立ちからいうと…

産経ニュース
平成29年秋、紫綬褒章を受章して会見に臨む
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《詞先(しせん)か曲先(きょくせん)か―。楽曲制作をめぐり、よく聞かれる言葉である。先に詞を書いて曲をつけるか、メロディーを先に作って後付けで詞をあてるか。作詞家や作曲家、シンガー・ソングライターそれぞれに好みがあるが、松本さんはどうなのか》


歌の成り立ち方からいうと、詞先が基本だと考えています。

たとえば、ヨーデル(地声と裏声を急速に切り替えながら歌う、アルプス地方など発祥の歌唱法、あるいは楽曲形式)。世界的なテノール歌手とお話ししたときに教わったのですが、元は羊飼いの歌で、仲間や羊に向かって「もう帰るぞ」「集まれ」と呼びかける言葉に曲がついた。それがヨーデルになって、西洋の声楽の一つに発展していったのだそうです。

農耕民族の日本人には、雨乞いの歌というのがあります。雨が降らないと作物ができませんから、神様にお祈りをする。その祈りの言葉というのが、まずあったはずです。そして、豊穣(ほうじょう)だったときに神様に捧(ささ)げる感謝の言葉も。いずれも、神様に捧げる祈りの言葉があって、それに曲や舞がついていった。そういうのが根っこにあって、一般的な芸能やアートも生まれていったのだと思います。

人間以上の存在たる神様に、お願い事を聞いていただきたい、あるいは喜んでいただきたい―。そういう思いを乗せた言葉は深い。そう考えると、やはり詞が先、というのが基本でしょう。

「雨を降らせてください」という言葉にメロディーがつき、演奏がつく。演奏が琴とか笙(しょう)とかであれば雅楽になり、三味線なら歌舞伎みたいになる。もちろんロックビートの演奏をつけても成立します。恋愛の歌も同じで、あなたに何とか僕の気持ちを伝えたい―という思いをつづった強い詞があって、メロディーや演奏がつくことで、歌舞伎風にも、歌謡曲風にも、ロック風にもなる。言葉は同じで服を着替えているだけ。メロディーというのは言葉から引き出されるもの。それが自然な成り立ちだと僕は思います。


《詞先が基本という考え方の松本さん。では曲先についてはどう考えているのか》


現代においては、アメリカで今、こういう歌がはやっているからこんな感じのサウンドで作ろう、という作り方もあります。そのサウンドをイメージしてメロディーをまず作ってアレンジして、後付けで詞をあてる。それが曲先。たとえが正しいかどうかわかりませんが、詞先が伝統工芸的な作り方だとすれば、曲先は近代的な大量生産のやり方とでもいえるでしょうか。実際、曲先は大量生産をしやすい形式なんですけどね。

詞先が基本と言いましたが、実際に作詞をする上では、どちらが正しいとかは気にしていません。僕はいずれでも対応できます。詞先か曲先かは人の関係によります。楽曲をつくる人に合わせて書きますから。

筒美京平さんとのコンビでは、ほとんど詞先でした。出会ったころ、京平さんはすでに自分のスタイルが完成されていて、何か新しいことをしたいと望んでいたようです。そこへたまたま10歳ほど若く、新しい価値観を持った僕が現れた。「じゃあ、松本くんに合わせるから先に詞を書きなさい」と。で、僕が先に詞を書いて、京平さんが曲をつけたら、それまでとは全然違ったものができて、京平さんも喜んだんです。以降、京平さんと曲を作るときは詞先ということになりました。

(元「はっぴいえんど」の)細野晴臣さんも割と僕の言葉が好きで、「先に書いて」といいます。吉田拓郎も同じ。彼みたいなタイプは外国にもあまりいません。あのしゃべるようなメロディーはまったくのオリジナルです。本人はボブ・ディランに影響されたといっていますが、ディランのメロディーとは全然違います。詞が先でないとできない、というのがわかる気がします。(聞き手 古野英明)

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