この映画の上映会で、漫画家の石坂啓氏は「(暗殺事件を)知ったときは思わず、でかしたと叫びました」といい、「夫は〇〇(=容疑者の名字)様と呼んでいる」とあぜんとする発言をした。社会学者の宮台真司氏は「安倍晋三氏という瓶のフタが取れた」「(今回の事件は)機能としては世直しとして機能している」とまで述べた。
2人とも、安倍氏を死に追いやったテロリストの行為を称賛・是認していたのだ。
暴力は暴力の連鎖を招くのか。
宮台氏は11月29日、勤務していた都立大学構内で襲撃された。駐車場付近で、いきなり背後から切りつけられたという。重傷だったが、幸いなことに一命は取り留めた。現時点で犯人が何者であり、なぜ凶行に及んだのかは分からない。
だが、現代日本にとって危険な兆候であることは疑い得ない。「言論が暴力によって封殺される社会」だとすれば、決して自由民主主義社会とは呼べない。
岸田文雄首相は毀誉褒貶(きよほうへん)が激しい。だが、安倍氏の「国葬(国葬儀)」を実行したことは事実だ。自由民主主義社会が、テロリズムを許さないとの意志を内外で示したという意味で、この国葬儀の意義は大きかった。
鳴り物を持って集まり、国葬儀を妨害しようとした少数者も存在したが、多くの国民は静かに安倍氏を送ろうと献花に集まった。2万5000人以上に及んだという。
日本の希望は、大声で騒ぎ立てることもせず、じっと献花の時を迎えた市井の人々の静かな怒りと祈りの中に存在している。
■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。大和大学准教授などを経て、現在、一般社団法人日本歴史探究会代表理事。専攻は政治哲学。著書・共著に『偽善者の見破り方 リベラル・メディアの「おかしな議論」を斬る』(イースト・プレス)、『エコファシズム 脱炭素・脱原発・再エネ推進という病』(扶桑社)、『政治学者、ユーチューバーになる』(ワック)など。ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。