大阪特派員

日本のブルックリンから 木村さやか

産経ニュース

わが大阪本社と同じ大阪市浪速区という立地に、深い親近感を覚える。ただし、この会社の最寄り駅は新今宮。通天閣などがある繁華街「新世界」に近く、隣には日雇い労働者の街として知られる「あいりん地区」が広がる。大阪で最もディープなエリアの一つだ。

日本で暮らす外国人向けポータルサイトを運営する「YOLO JAPAN(ヨロ・ジャパン)」。本社は、おしゃれなアートが壁に大きく描かれたモダンな運営施設の中にあるが、周辺に並ぶのは古いアパート。窓に干された洗濯物が風にはためく。「僕は、日本のブルックリンやと思ってます」と、代表取締役CEOの加地太祐さん(46)はにやりと笑った。

同社が外国人向け仕事情報サイトを立ち上げたのは約6年半前。新型コロナウイルス禍でインバウンド(訪日客)が激減しても登録者は増え続け、現在は世界226の国・地域出身の外国人23万人が登録する日本最大の外国人プラットフォームだ。だが、広告宣伝に費用をかけたわけではないという。

「僕らが提供しているのは、困りごとを解決するサービス。異国で暮らすときって、母国出身者のコミュニティーが濃密になるじゃないですか。それぞれの困りごとが解決するたび、その情報がすごい濃度と速度で広まっていったんですよ」

高校を中退後、製造業や金融業で働いた加地さんが外国人に関わる仕事を始めたきっかけは、話せるようになりたいと一念発起して通い始めた英会話スクールの倒産。十数人のスタッフに「オーナーが失踪して、給料は2カ月未払い状態。助けてください」などと懇願された加地さんは、本当に一肌脱いだ。28歳で400万円を借金し、副業として新たに英会話スクールを起業。オンライン方式のメニューを追加した試みがヒットし、60人ほどだった生徒は3千人近くに増えた。

だが軌道に乗り始めた7年前、自転車で帰宅中に車と衝突。5日間意識不明の重傷を負った。目が覚めたとき、「あのまま死んでいたら、ただの英会話スクールのおっさんで終わりやった。世のため人のために何もなさないままで終わりたくはない」と心の底から思い、1年間考え続けた。

自分の子供や、その次の世代に何か残すには、日本が抱える課題の解決に寄与すべきではないのか―。真剣に考えた末、「少子高齢化が進む中で日本はいずれ、立ち行かなくなる。外国人にもっと活躍してもらわないとあかん、と思いました」。外国人向けの生活支援サービスが必要だ、とひらめいた。

日本企業が外国人を雇う際の最優先事項は、言葉が話せること。だが、日本語がおぼつかない外国人ほど就ける仕事も借りられる部屋もないなど、困りごとを多く抱えている。そんな人たちを支援して、存分に働いてもらい、税金を納めてもらって、日本社会にも貢献してもらおう―。「YOLO」のビジネスは、そんな発想から広がっていった。

コロナ禍で休業中のホテルを活用し、仕事を失った外国人をキャストに雇って開設した「ドライブインお化け屋敷」には、5カ月間で約6千人が来場。経済的に困窮する外国人の居場所づくりを目指した「外国人食堂」も開設した。「コロナ禍中は『焼け野原状態』だった」というが、事業は伸長し続けている。

加地さんの軸は、幼いころから父親に言い聞かせられた「他人の問題をひとごとにせず、自分ごととして取り組まないと、自分自身が成長する機会を失う」という言葉だ。困っている人を放っておけないどころか、本気で助けようとする性分は、そのたまものだろう。

水際対策の大幅緩和でインバウンドが戻り始めた今、加地さんは「猛烈に忙しい」と満面の笑みだ。「人生って分からない。だって、生きている間に何度でも、人間は生まれ変わることができるんですから」(きむら さやか)

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