糖尿病や心筋梗塞の既往など、動脈硬化を引き起こす要因が突発性難聴の重症化だけでなく、難聴が発症していない耳(健側)の難聴にも影響を及ぼし、さらに健側に中等度以上の難聴があると突発性難聴が治癒しにくいことが、慶応義塾大学や東海大学などの共同研究で明らかになった。さらに動脈硬化を発症した際に服用する、血栓の生成を防止するための抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)が、突発性難聴の回復しにくさに関連していることも判明。研究グループは突発性難聴の診断に動脈硬化のリスク評価や治療状況を加味する必要性を強調している。
診断基準が原因解明を阻んでいる可能性
突然聞こえが悪くなる難聴は「突発難聴」と呼ばれ、爆発音やロックコンサートなど強大音への曝露や聴神経腫瘍、おたふくかぜの罹患などが原因とされる。ただ、突発難聴の原因が不明で、その多くが「突発性難聴」と診断されることが多い。
ステロイドの全身投与や、鼓膜の奥への直接投与等を中心にさまざまな治療が行われているが、その治癒率はわずか3~4割程度にとどまる。突発性難聴の原因・病態にはウイルス感染、自己免疫、動脈硬化や梗塞による内耳への血流障害などの説があるが、いまだ明らかになっていないのが現状だ。
そうした問題の背景にあるのが同疾患に対する診断基準。対象が72時間以内に発症した突然の難聴に限定されていたり、聞こえが悪い耳(患側)のみの聴力を基準にして診断が行われている。研究グループは「解明されていないさまざまな原因や病態が一つの疾患としてまとめて扱われてしまっている可能性がある」と指摘。耳鼻咽喉科の診療で糖尿病などの動脈硬化因子をもつ突発性難聴患者が多いことに着目し、動脈硬化因子と健側の聴力の関連性について、過去に収集された症例を用いた「後ろ向き観察研究」を実施した。