「東西」結んだ江戸の自由人・鬼卵 作家・永井紗耶子さんの小説「きらん風月」1月8日連載開始

産経ニュース
「鬼卵がたどってきた道の中に、江戸時代の歴史のかけらを見つけたい」と話す作家の永井紗耶子さん(寺河内美奈撮影)
「鬼卵がたどってきた道の中に、江戸時代の歴史のかけらを見つけたい」と話す作家の永井紗耶子さん(寺河内美奈撮影)

直木賞候補となった「女人入眼(にょにんじゅげん)」などの著書がある歴史・時代小説界の新鋭、永井紗耶子さん(45)による新連載小説「きらん風月」が、来年1月8日から始まります。数多(あまた)の読本や絵画を残した江戸時代後期の戯作者、栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)(1744~1823年)の生涯を題材にした歴史小説です。永井さんにとっては初めての新聞連載小説で、毎日掲載されます。

上方文化が花開いた河内国(大阪府)で生まれ、絵画や俳諧などをたしなんだ鬼卵は生粋の自由人。諸国を遍歴し、東西文化の交差点である遠江国(静岡県)でたばこ屋を営みます。東海道の名士や文化をまとめた紳士録「東海道人物志」のほか、尼子十勇士などを描いた戯作を著し江戸や大坂で歌舞伎として公演されます。災害や飢饉(ききん)、異国船の脅威などに揺れた時代に、筆一本で東西文化のつなぎ役となり新たな価値観を模索した異才の歩みが描かれます。タイトルの「風月」は、老中として寛政の改革を断行した松平定信の雅号の一つ。小説では、最晩年の鬼卵と隠居の身となった定信との出会いにも光を当て、現代にも通ずる人間ドラマが織りなされます。

題字は産経国際書会理事長の風岡五城(かざおかごじょう)さん、挿画は画家の大前純史さんが担当します。連載小説にご期待ください。1月からの連載を控え、作品にかける思いなどを永井さんに聞きました。

松平定信との邂逅

「鬼卵は現代においては決して有名人ではない。でも調べていくうちに、筆一本を信じて生きた姿に、物書きとして共感できたんです」と永井さんは明かす。

「華やかな上方文化のど真ん中で絵画や俳諧、狂歌をたしなみ、東海道を漂泊する。老中として寛政の改革を推し進めた松平定信と出会ったとの逸話もあり、円山応挙、滝沢馬琴ら名だたる人々ともつながりを持つ。土地に縛られず、栄達からも離れたところにいて、年下を師と仰ぐのもいとわない…。そんな柔軟で自由な生き方は今の時代にこそ求められるとも思ったんです」

ときは19世紀はじめ、江戸の文政年間。東海道・遠江の日坂宿で、老境の鬼卵は小さなたばこ屋を営んでいた。60歳を過ぎてから尼子十勇士にまつわる物語「勇婦全伝絵本更科草紙」や、現代も歌舞伎として残る「長柄長者黄鳥墳(ながらちょうじゃうぐいすづか)」などの戯作をはじめ、20冊を超える読本を送り出す健筆ぶり。隠居となった松平定信が旅の途上、鬼卵の評判を耳にし、このたばこ屋を訪れる場面から物語は始まる。

「自由人の鬼卵と、異学の禁や封建的な国造りを志向した定信。対照的な2人だけれど、互いに分かり合える部分もあったはず。この出会いの意味を探れば、江戸の新たな一面が見えてくるかもしれない」

「東海道人物志」

小説では、運命的な邂逅を果たした2人の肩ひじ張らない会話を導きの糸に、時をさかのぼり鬼卵の歩みをひもといていく。上方文化が胎動する河内国(大阪府)で狂歌や浮世絵で稼ぎ、応挙や上田秋成と交流した思い出。移り住んだ三河吉田(愛知県)の地で襲われた天明の大飢饉(ききん)と妻との死別。失意を乗り越えて再び筆を握った三島(静岡県)での日々…。災害や飢饉、異国船の脅威に揺れた時代状況も活写される。次第に、東海道を遍歴し、自由、そして新たな価値観を求めて文化の広大なネットワークを築いた男の姿が浮かび上がってくる。

鬼卵の代表作ともいわれる「東海道人物志」は象徴的。東海道の名士たちの姿や各地の文化の香りを伝える紳士録は、観光をする人たちが増え始めていた当時、東西の文化をつなぐ役割を果たす。

「文化って、ネットワークが重要だと思うんです。文化の中心が上方から江戸へと移っていく過渡期だからこそこれを書いたのかなあと。鬼卵は各地の文化や人々をこの本でつなぎ、時代の流れを広めていく一端を担っていたのかもしれない。今私たちが何か新しいアイデアを思い付いたとき、SNSで発信しますよね。それと同じようなことを鬼卵はやっていた気がする」

新しい角度で

永井さんは幼いころから物語を書くのが好きで、小学校の卒業文集の「将来の夢」欄には作家と記した。新聞記者やフリーライターを経て作家デビューして十数年。鎌倉時代の女性たちの物語『女人入眼(にょにんじゅげん)』(中央公論新社)は今夏の直木賞候補になり、高く評価された。今、最も期待を集める時代・歴史小説の書き手の一人だ。史料を丹念に読み込み、そこに現代と響き合う切り口を探すことを心掛けている。

「時間軸は違っても人間は人間。昔から似たことを考えていた人がいたんだな、と知ることで、いま悩んでいることに救いをもらえる。しんどい状況でも乗り越える方法や解決の道筋が見えることもある。昔を知るからこそ分かることがあるんですよね」と話す。

「新しい角度で江戸を斬ってみたい。東海道のさまざまな土地の面白い伝承や史実をたくさん盛り込んで、読者の方が毎回楽しめる小説にできれば」

ながい・さやこ 昭和52年生まれ。横浜市出身。慶応大文学部卒。新聞記者を経てフリーライターとして活躍。平成22年に「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』で新田次郎文学賞などを受賞。今年、『女人入眼』が第167回直木賞候補に。来年1月に新作『木挽町のあだ討ち』が刊行予定。

鎌倉幕府最大の失策を追う 永井紗耶子さん著「女人入眼」

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