大阪府警福島署の留置施設で9月、大阪府高槻市で保険金目的で女性を殺害したとして、殺人容疑などで再逮捕されていた容疑者が自殺した。容疑者の自殺は留置施設で最も避けねばならない事態だ。これだけでも大失態だが、府警の体質が問われかねない問題の根は、署員が巡回強化の指示に従わず、その巡回・点検の記録を偽った「噓の上塗り」の方にこそ感じる。
容疑者が自殺をほのめかした便箋は8月30日午前0時過ぎに確認されていた。そこから自殺を図っているのが見つかるまで2日半。今月14日に公表された府警の調査報告書を読む限り、この間、対応にあたった署員や府警本部の担当者は一様に危機感が薄い。
取り調べ中に逃走をほのめかした容疑者は、注意が必要な「特異被留置者」に指定されていた。便箋の発見で、逃走と自殺の両方のリスクが生じた。だが当時の同署留置管理課長は「自殺の恐れは低い」と判断し、対面監視でなく通常の巡回の強化方針を具申。当時の署長も同意し、対面監視などで監視を徹底する「特別要注意被留置者」には引き上げなかった。
報告書では「特別要注意被留置者に指定し、対面監視を検討すべきだった」と指摘したが、結局、府警本部もストッパーとなり得なかった。本部留置管理課の担当者も便箋の原本の確認をせずに署の判断を事実上追認。必要な検討を行うよう指示もしていない。
現場の署員も巡回強化の指示を守らず、自殺前夜は50回行われるべきだった巡回をわずか22回しか実施していなかった。容疑者の居室を確認したのはこのうち15回だけ。自殺直前は約1時間にわたって一度も巡回していなかったが、いずれもあろうことか、指示通りに巡回したとする虚偽の記録を作成していた。
署では結局、24時間交代で留置施設で勤務する3班全てが巡回や、自殺に使われたTシャツの一部が入っていた私物保管庫の点検を規定・指示通りに実施せず、虚偽の記録を残していた。巡回を減らして空いた時間を書類の作成などに充てていたという。決して言い訳にはならないが、現場に人手不足や業務過多が生じていたのならば、体制の見直しも必要だ。
平成30年、富田林署の留置施設から逃走した男のケースでは、当直担当署員の勤務日を記録し、逃走決行のタイミングを計っていたことが明らかになっている。今回、巡回・点検がおろそかになったことで自殺につながったかどうかは分からないが、一因となったことは間違いないだろう。
「多くの問題が複合的に作用した」。報告書は自殺を防げなかった要因について、業務の基本をおろそかにし、府警本部と警察署の連携も不十分だったことなどを挙げた。一言でいえば全員が当事者意識を欠いていたといえる。
その上、職務遂行に誰よりも誠実性が求められる警察官自身がここまで虚偽報告を重ねた事態が露呈したのだ。国民の警察不信を拭い去り、信頼を回復させるのは容易な道のりでないことを肝に銘じた方がいい。
報告書は《組織一丸となり再発防止対策に取り組んでいく》と結ばれていた。その言葉だけは、虚偽であってはならない。
(社会部 鈴木俊輔)
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大阪府警留置施設の容疑者自殺 大阪府高槻市で資産家女性を保険金目的で殺害したとして、殺人容疑などで再逮捕された高井(旧姓・松田)凜(りん)容疑者=当時(28)=が9月1日、大阪府警福島署の留置施設で自殺。所持品から自殺をほのめかす便箋が見つかっており、府警は今月14日、リスク評価が不十分で、巡回や私物点検を怠ったことが複合的に作用したとする調査報告書を公表した。同署留置管理課の3人を虚偽の報告書を作成したとする虚偽有印公文書作成・同行使容疑で書類送検。当時の署長ら7人を懲戒処分とするなど計18人を処分した。