3人の死傷者を出した20年前の事件は、教訓にはならなかったのだろうか。名古屋刑務所で再び、刑務官による受刑者への暴行が発覚した。
受刑者の更生を担う立場にある者が、暴力に訴えた処遇を行うとは論外である。法務省は近く設置予定の有識者会議などを通じて問題の原因や背景を洗い出し、刑務所のあり方を根本から改善せねばならない。
今回の暴行は、昨年11月上旬から今年8月下旬にかけて起きた。22人の刑務官が3人の受刑者に対し、顔をたたいたり、アルコールスプレーを顔に噴射したりする暴行を行った。いずれも集団ではなく個別の行為だったというが、複数回に及ぶケースもあった。60代の男性受刑者が左まぶた付近に5日間のけがを負った。
問題なのは、名古屋刑務所が、刑務所改革の出発点となった施設であることだ。平成13年から14年にかけ、刑務官が消防用ホースで受刑者に放水したり、革手錠で腹部を締め上げたりしていたことが明らかになり、後に7人の刑務官が有罪になった。
事件をきっかけに明治時代からの監獄法が改正され、刑事収容施設法が施行された。刑務所という閉鎖空間での暴行を防止するため、刑務官には人権尊重のための研修を義務付け、弁護士や医師らで構成される刑事施設視察委員会が刑務所の運営をチェックする制度も導入された。
名古屋刑務所の同委員会は3月、職員の言動などへの不満が相当数あるとして対策を講じるよう求めていたが、刑務所側は不当な言動はなかったと回答していた。組織として問題意識が欠落していたと言わざるを得ない。
暴行に及んだ理由を刑務官は「受刑者が指示に従わなかったから」と話している。多くは20代で十分な経験があったとはいえない。処遇の難しい受刑者にはベテランと組ませて対応するなどのやり方はできなかったのか。
折しも刑務所は転換点にある。懲役刑と禁錮刑を一本化した拘禁刑を新設する改正刑法が成立し、受刑者個人に合った刑務作業と指導を刑務所側が行えるようになる。刑務所は懲罰より社会復帰に向けた改善更生を重視する場所となるが、今の体制でこれらの使命が遂行できるかは非常に心もとない。矯正に関係する一人一人の職員の意識改革を求めたい。