「自分の子供の教育にそれほど熱心であるなら、なぜもっと自分自身の教育に熱心にならないのだ」。先日、若い人と話している中で、こんな話が出てきた。日本人には子供の教育に多くのお金とエネルギーを使う人が少なくないが、自分の教育にそれと同じぐらいのお金とエネルギーをかけているだろうか。首を傾(かし)げる人が多いだろう。
自分は教育によってこれ以上得られるものは少ないから、教育に使うお金があるなら子供のために使いたい、自分の子孫のために使いたい、というのは分からないではないが、自分のための教育を諦めているというのは寂しい。人生は学び直しの時代であり、社会人になって学び直す「リカレント教育」の重要性は増している。教育とは「教えて育てる」と書くので、子供たちが教育の主たる対象と考えられがちだが、「学ぶ」ということになると、自分こそがその主たる対象となるはずだ。
昔教えていた学生に久しぶりに会うと、「社会人になり初めて、学生時代にもっと勉強しておけばよかったと思った」という人が多い。大学時代は親に教育費を出してもらい教育機会を与えられていた人が多い。自分のお金で目的を持って学ぶのでなくては、本当の意味で学ぶことはできないのかもしれない。
世界の主要国に比べて、日本は大学生の平均年齢が低いといわれる。大学で学ぶ学生の大半が、高校を卒業したらすぐに入学してくる人たちで、そのほとんどは卒業したら二度と大学に戻らない。だから大学には20代前半までの学生が大半だ。しかし、海外では、社会人を何年か経験した上で大学に入り直してくる人も多い。ビジネススクールのような職業経験をへて入る専門職の大学院も多くある。要するに、自分の意思と自分のお金で自分のために学ぼうという人が多いのだ。そうやって自分の学びのためにお金や時間を使えば、自分の求めるキャリアや高い所得を得るチャンスも増える。学びがより多くのチャンスを与えてくれるのだ。
大人がもっと学ぼうとしないのだから、日本人の所得が低迷するのも当然だ。日本人の賃金が非常に低いことが問題視され、雇用制度や企業の行動が批判されることが多い。そういった問題があることは否定しないが、そもそも学びを続けない人の生産性が上がるはずはないし、所得も増えるはずはない。
最近になって、少しずつリカレント教育の重要性を指摘する人が増えてきた。人生100年時代なのに、20代前半までに学んだ知識だけで一生食べていくのは困難であり、常に新しいことを学び続ける姿勢が必要だ。また、社会が大きく変化するほど、学び直しが求められる。新しいことを学んでも、それで所得が増えるわけではないと言う人もいるが、より熱心に学んだ人の所得が増えない社会は変えていかなければいけない。より貪欲に学ぼうとする人の所得を上げることは企業にとっても合理的なはずだ。最後にもう一度言いたい。大人はもっと自分の学びに時間とお金を使うべきだろう。(いとう もとしげ)