『樹林の罠』佐々木譲著(角川春樹事務所・1980円)
『笑う警官』から連なる大ベストセラー<北海道警察>シリーズの最新刊が、本作『樹林の罠(わな)』になります。
もともと同時代を描くというコンセプトで書かれてきた本シリーズですので、本作では新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)によって変わってしまった日常の風景が、主人公たちの生活を通してディテール豊かに描かれています。
コロナ禍によって思うように仕事ができない、それでも家族のために懸命に生きる人、逼迫(ひっぱく)した医療機関で働く人、変化し続ける街の様子、そして新しい犯罪…まさに時代と社会を写し取る警察小説の魅力にあふれています。
またこれまでのシリーズで積み重ねてきた主人公たちの人生の転機は、多くの方に共感いただけると思います。
そして本作で描かれる犯罪も現代を反映したものが題材に選ばれています。著者の佐々木さんにうかがったところ、「本作で描いた犯罪の側面というのは、ここ数年で特に見られるようになったと感じていました。ちょうど本作を書いた後に、これに関連するニュースが話題になったんですよね。それを見たときに『ああ、この作品で描いたことは非常に根深い問題なのだな』と強く感じました」とおっしゃっていました。
佐々木さんが描かれる作品には、未来を予見するような内容が多いことも特徴で、本作もそのような側面を持っています。
壮大な大河小説シリーズの最新作であり、現代を照らす傑作警察小説の誕生です。
(角川春樹事務所 書籍編集部 永島賞二)