平成28年12月22日に起きた新潟県糸魚川市の大火から6年がたった。大火では地域を守る消防団の重要性が改めて認識されたが、団員の数は減少の一途をたどっている。かつて200万人以上所属していたが、総務省消防庁によると、今年4月1日時点の消防団員数は過去最少の78万3578人。1年で2万人超も減少し、初めて80万人を割り込んだ。糸魚川市の大火でもその活躍が注目されたが、団員のなり手不足は深刻だ。(大竹直樹)
消防団員は普段は他の仕事や学業をしながら災害時の住民救助や避難誘導、消火活動などに当たる非常勤の地方公務員。原則18歳以上で、その地域に居住または勤務していれば誰でも入団できるが、少子高齢化や会社勤めの人が増えた影響で年々減少している。
特に若年層の割合が減っており、30代以下は4割を下回る。消防庁の担当者は「訓練が大変とのイメージから若い人に敬遠されている」と分析。団員の負担軽減や出動報酬の引き上げなどを行っているという。
減少に歯止めをかけようと、消防庁は今月12日、お笑いコンビ「和牛」をリーダーとする入団促進サポーター「和牛消防団」の任命式を開いた。消防庁が力を入れているのが女性の加入促進。糸魚川市出身のお笑いタレント、横澤夏子さん(32)は「糸魚川大火の時も消防団員が大活躍した。ぜひお母さま方も消防団に入ってほしい」と女性の消防団参加を強く呼び掛けた。
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「蓮華(れんげ)おろし」。地元でこう呼ばれる強い南風が吹く日だった。平成28年12月22日午前10時20分ごろ、新潟県糸魚川市中心部の繁華街にあるラーメン店から出火。間もなく119番通報が入り、地元の消防団にも出動要請がかかった。
「消防服とヘルメット、長靴はいつも車の中に積んであるので、すぐ現場に駆け付けることができた」。市内でシステム開発会社を営む斉藤直文さん(56)は現場からほど近い訪問先の企業で火災を覚知した。当時は市消防団の副団長を務めていた。
市消防本部は消防ポンプ車全6台を出動。まず45人の消防団員が消防隊員とともに消火に当たったが火勢は衰えず、出火から約1時間後、想定外の事態が起きる。燃えた木材が強風にあおられ飛び火したのだ。至るところで同時多発的に延焼が拡大。「初動が大事。初期消火の失敗が大きかった」と斉藤さんは悔やむ。
地元の糸魚川方面隊だけでなく能生(のう)、青海(おうみ)方面隊にも出動要請がかかり、市内全域から760人の消防団員が駆け付けたが、鎮火までに実に約30時間を要した。団員らは息つく暇もなく活動。昼夜を分かたず現場で陣頭指揮を執った斉藤さんも、未明に1時間半ほど公民館で横になった以外「立ちっぱなしだった」。
全焼120棟、半焼5棟、部分焼22棟の大惨事。幸いにも犠牲者はいないが、17人のけが人のうち15人が消防団員だった。
糸魚川では安永6(1777)年以降、100棟以上の建物が被災する大火が13回も発生。いずれも強い風が影響していた。現在、団長を務める斉藤さんは「記録は残せても記憶は消えていく。大火の教訓を忘れてはいけない」と講演活動を続け、全国の消防団員らに被災の記憶を伝えている。
消防団員のなり手不足は幾度と大火を経験している糸魚川も例外ではない。6年前の大火当時、1027人いた団員は今年7月現在で924人と100人以上も減少している。だが、斉藤さんは強調する。
「自分たちの地域は自分たちで守る。それが消防団の原点。人は減っても、組織がしっかりしていれば、消防力は下がることはないと思っている」