話の肖像画

作詞家・松本隆<22> シベリアの大雪原のイメージだけど、実は

産経ニュース
平成22年ごろ
平成22年ごろ

<21>に戻る

《盟友、大滝詠一さんのアルバム「A LONG VACATION」(愛称「ロンバケ」)は、当初予定より半年以上遅れて昭和56年3月21日にリリースされた。1曲目は、亡き妹のことを書いた「君は天然色」。収録曲10曲はいずれも大滝さんらしく、明るく、スケールが大きい歌ばかり。中でも、ラストの「さらばシベリア鉄道」は壮大なスケールの歌で、このアルバムを締めくくるにふさわしい楽曲だ》


この歌は、広大な雪原をゆく列車の旅、ということになっていますが、実は(1年後に開業する予定の)東北新幹線のイメージで書いたんです。こんなことを言うと、印象が変わってしまうかもしれませんね。

大滝さんは岩手出身の人ですから、岩手方面に帰る列車の中で、というイメージであれこれと思い浮かべて。東北の厳しい冬を表現して「シベリア」と言い換えました。

ヒントになったのは、「はっぴいえんど」時代の経験でした。青森でコンサートをしたときのことが、すごく印象に残っていたんです。

青森についた日の夜は雪が降っていなくて、積もった雪もない。全国どこででも見られる普通の冬景色でした。ところが、ホテルに一晩泊まって、翌朝起きてカーテンを開けたら、あたり一面真っ白、銀世界になっていました。そのときに見た景色の印象が強烈だったんです。

その光景を見て湧いたインスピレーションをもとに、列車の中で詞を書きました。あのころはまだ、食堂車がある長距離列車に乗っていく、そんな時代でした。僕は食堂車で「抱きしめたい」という曲の詞を書き上げました。


《「抱きしめたい」は、昭和46年に発表された2枚目のアルバム「風街ろまん」の1曲目に収録。「冬の機関車」が「黝(くろ)い煙を吐き出しながら 白い曠地(こうち)を切り裂いて」走るようすが描かれている》


大滝さんのアルバムということもあって、「はっぴいえんど」時代の経験を下敷きにしてロンバケの詞も書いていたんですが、そのロンバケもほぼできあがったというころに、大滝さんが「最後にもう1曲できたから詞をつけてよ」と言ってきたんです。

曲を聴いてみると、僕が昔好きだったスウェーデンのエレキバンド「ザ・スプートニクス」っぽい感じの曲だったので、ロシアのイメージで書こうと思い立ちました。なぜスウェーデンなのにロシアなんだ? なんて聞かないでください。寒い北の国ということからのただの思いつきですから。

そして、最後の1曲に、「はっぴいえんど」時代の青森の経験がピタッとはまったときは感無量でした。


《ロンバケは発売1年で100万枚を突破。20年後の平成13年時の再発盤を含めた累計売り上げは約170万枚、さらに令和2年には200万枚以上に達するなど、時代を超えて売れ続けている。だが、当初はレコード会社CBS・ソニーの関係者はそれほど売れるとは考えていなかったという》


そもそも、発売延期をよく許してもらえたなと思います。大滝さんにとっては、日本コロムビアからソニーに移籍しての記念すべき1枚目であり、再出発の気持ちを込めたアルバムでした。でも、レコード会社としては、そこまで大ヒットするとは思っていませんでした。

ディレクターに「ソニーはどれくらい売るつもりなの」と聞いたら、「5万枚ぐらい」と。それは桁が1つ足りないんじゃないの、と返しました。僕は直観で、これは売れると思っていました。「ルビーの指環」のときと同じような感覚がしたんです。

発売から40年以上ずっと売れ続けていますから、日本で一番長い間売れているアルバムかもしれません。今でも夏になると売れます。怪物みたいなアルバムですよね。(聞き手 古野英明)

<23>につづく


  1. NHK朝ドラ「舞いあがれ!」2月7日OA第88話あらすじ 悠人(横山裕)が低体温症になっていることに気づいた久留美(山下美月)は…

  2. ロシア軍〝弾切れ〟目前 年明けにも備蓄尽き…ウクライナに全土奪還される可能性 イランや北朝鮮からの供与なく軍の士気低下も

  3. 中露〝蜜月崩壊〟習主席がプーチン氏見捨てた!? 「ロシアの敗北は時間の問題」中国元大使が発言 インドの浮上で変わる世界の勢力図

  4. 2月6日スタート!NHK朝ドラ「舞いあがれ!」第19週あらすじ 悠人(横山裕)は音信不通、IWAKURAには報道陣が集まり…

  5. 【安保法案特別委採決】辻元氏、涙声で「お願いだからやめて!」と絶叫 民主、プラカード掲げ抵抗