今季から導入された現役ドラフトで2015年から8年間巨人に在籍した戸根千明投手(30)が広島に移籍した。戸根さんは、記者にとって日大野球部時代の3学年上の先輩。21年から巨人担当になってからは、気さくに声をかけてくださった先輩の電撃移籍は、寂しい半面、新天地で活躍してほしいという気持ちが入り交じった複雑な心境だった。
戸根さんとのやり取りで印象に残っている会話がある。可能性を広げるために二刀流を挑戦したのち、再び投手一本で臨む21年の沖縄・那覇での春季キャンプ。選ばれたものにしかチャレンジできない二刀流で得たものを聞いた際のことだった。
「初めて野手をやってできないことばっかり。野手をやって自分の中にあった変なプライドは消えたよね」
即戦力左腕として入団して以降、1軍を主戦場として戦ってきたが、けがに苦しんだ20年は1軍出場なし。ファームで多くの時間を過ごし、育成や2軍からはい上がろうともがく後輩の姿を目の当たりにしてきた。苦楽をともにした戦友がオフに戦力外通告を受け「僕らの気持ちも背負って投げてください」と思いを託されたという。
「生き残った人間として、(後輩の思いを)ずっと思っている。(他の選手の)気持ちも背負って投げるからまた違う自分も見せられると思う」
今ある環境が当たり前でないことを再認識。仲間思いの左腕は、志半ばで夢破れた後輩、同級生の思いを背負ってマウンドに立っている。
〝巨人の戸根〟として最後のメディア対応となった12月の契約更改では「投げダルマくらいに投げまくって、文句一つなく投げられたら男として格好良いと思う」と来季に向けた意気込みを話していた。巨人の戦力として躍動する姿を見ることはもうできない。だが、仲間の思いを背負って新天地で暴れる姿を見られることを楽しみにしている。(樋口航)