政府は、国家安全保障戦略(NSS)など安保3文書を閣議決定し、敵のミサイル発射拠点などを攻撃する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した。5年間の防衛費総額を約43兆円とし、最終の令和9年度には防衛費と補完する関連予算を合わせ、今の国内総生産(GDP)比2%にすることが決まった。
日本の防衛政策の大転換である。「平和を守る抑止力を向上させる歴史的決定を歓迎したい」と産経が高く評価するなど、読売、日経が支持を表明したのに対し、朝日、毎日、東京は、反対論を展開した。とりわけ、反撃能力保有に対しては、憲法に基づく専守防衛の形骸化、空洞化などと手厳しく批判した。
朝日は「相手に攻撃を思いとどまらせる『抑止力』になる確かな保証はなく、軍事力による対抗措置を招いて、かえって地域の緊張を高めるリスクもある。先の戦争への反省を踏まえ、日本自身が脅威にはならないと堅持してきた方針を空洞化させることが、賢明だとは思えない」と論じた。
毎日は「能力行使の判断を誤れば、国際法が禁じる先制攻撃とみなされる恐れがある。行使のタイミングは、他国がミサイル発射に『着手』した時点とされるが、何をもって判断するか具体的に示していない」と指摘した。
産経はこうした主張に反論した。「専守防衛違反として保有反対論が一部にあるが、国民を守らない無責任な主張である」とし、「能力行使のタイミングや対象の詳細な公表は侵略軍を利する禁じ手であり、与党合意が避けたのは妥当だ。国際法に沿って、先制攻撃を避け、『軍事目標』が対象となるという説明で十分である」と説いた。
防衛関連予算の9年度のGDP比2%への増額は、岸田文雄首相が11月末、関係閣僚に指示し、毎日や東京は、規模ありきの姿勢などと厳しく非難した。
東京は「日本の防衛費をGDP比『2%』とすることに、明確な根拠があるわけではない。北大西洋条約機構(NATO)加盟国はGDP比2%を国防費の目標とするが、ロシアと地続きで相互に防衛義務を負う欧州各国と日本を同列に扱う必然性はない」と難じた。これに対し産経は、「民主主義国の国際標準としてGDP比活用はおかしくない。自民党が先の参院選で、防衛費2%以上を念頭に置くとの公約で勝利した点も重要だ」と指摘した。
国家安保戦略は中国の動向を国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」とし、北朝鮮を「重大かつ差し迫った脅威」、ロシアを日本周辺での「安保上の強い懸念」とした。
日経は「世界は変わった。ロシアがウクライナを侵攻し、台湾統一に武力行使を辞さない構えの中国は日本近海にミサイルを撃ち込む。国際秩序は力に頼む帝国主義の時代に戻るかのような様相をみせ、東西冷戦の終結以来の岐路に立つ」と評した。産経は「東西冷戦期に形作られた防衛政策を漫然と続けては平和と国民の命を守れない時代になった」と強調した。読売は「硬直的な政府全体の予算配分を改め、防衛費を大幅に拡充することは、国を守る意志を内外に示したと言えるだろう」との認識を示した。
朝日は「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは事実で、着実な防衛力の整備が必要なことは理解できる」としつつも、「最大の課題は、軍事力を急速に強化し、力による現状変更もいとわない中国への向き合い方だ」とした。
防衛力強化は日本を挙げて取り組むべき大切な課題だ。首相には一段と指導力を発揮してほしい。(内畠嗣雅)
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■安保3文書の決定に関する主な社説
【産経】
・防衛費の「真水」大丈夫か(12月2日付)
・(反撃能力)国民を守る歴史的転換だ(12月3日付)
・(安保3文書)平和守る歴史的大転換だ/安定財源確保し抑止力高めよ(12月17日付)
【朝日】
・(敵基地攻撃能力)専守防衛の空洞化は許せぬ(12月2日付)
・「平和構築」欠く、力への傾斜(12月17日付)
【毎日】
・(2%)やはり「数字ありき」だった(11月30日付)
・(敵基地攻撃能力)専守防衛の形骸化を招く(12月3日付)
・国民的議論なき大転換だ(12月17日付)
【読売】
・(安保3文書)国力を結集し防衛体制強めよ(12月17日付)
【日経】
・防衛費GDP比2%は効果の徹底吟味を(11月30日付)
・「反撃能力」の保有へ国民の理解深めよ(12月6日付)
・防衛力強化の効率的実行と説明を(12月17日付)
【東京】
・(2%)倍増ありき再考求める(11月30日付)
・(敵基地攻撃能力)専守防衛の形骸化憂う(12月3日付)
・(安保3文書)平和国家と言えるのか(12月17日付)