小さい頃から、あまり物欲がない。拾った石や形の良い枝に満足し、姉や近所の子にそんな宝物を笑われても、自分の心がうれしければそれで良しという、どこかジジ臭い子供だった。いまだに当時の石を宝箱に入れていることから、成長してもあまり変わっていないらしい。
そんな私でも、かつて猛烈に欲しかったものがあった。5歳のクリスマス前のことである。
母方の祖父がクリスチャンであったため、クリスマスは祖父母、叔父、叔母1、叔母2と4つのプレゼントがもらえるシステムであった。あるときからプレゼントを考える手間も大変だし、ということで、なんとなくの金額上限を設けた上での、事前リクエスト制になった。
姉2人は子供らしく消費を謳歌する性格。予算上限を突破したであろう最新のゲーム機など、11月から電気店やおもちゃ店のチラシを集め、赤丸をつけて比較したり雑誌を読みあさったり、毎年実に楽しそうであった。
私は図書館で貸し出し不可の大判の図鑑がいいな、などとまったり考えていた。そこに滑り込んできた「ある物」を見るまでは…。
それは近所の幼なじみ、Sちゃんが見せてくれたものだった。
その四角いコンパクトを開けると、まず円形の鏡がある(フィルム張りの偽物ではない本物)。台座には八角形の金属を中心に、六角形の赤黄緑の3色の石がはまっている。またそれとは別に、金縁装飾されたエメラルドのハート、淡いイエローのローズカットの石。なんとこの2つは指輪として装着することもできる。そして最重要部分、真ん中の金色八角形部分を触ると「ピロリピロリピーラーー」と〝変身音〟が鳴る。
す、すごい!
その名は「ひみつのアッコちゃんリングコンパクト」であった。アッコちゃんが「テクマクマヤコン」を唱えて変身するときに開く、魔法のコンパクトだ。
アッコちゃんが特に好きなわけでもなく、本物の石好きとして子供だましな偽ジュエリーは常々不服に思っていた。しかし、このリングコンパクトは、これまで見たどんな玩具より高級感があり「本格派」デザインであった。
「欲しい!」と強烈な欲が全身を貫いた初体験。果たしてコンパクトは手に入るのか? 次回に続く。