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作詞家・松本隆<19> 大滝さんの作詞依頼と妹の死

産経ニュース
作詞家の松本隆さん(永田直也撮影)
作詞家の松本隆さん(永田直也撮影)

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《松田聖子さんの「白いパラソル」「風立ちぬ」、寺尾聰さんの「ルビーの指環」と大ヒット作を連発した昭和56年、松本さんが作詞を手掛けた話題作がもう1つ発表された。大滝詠一さんのアルバム「A LONG VACATION」(ア・ロング・バケイション、愛称「ロンバケ」)。1年で100万枚を突破し、その後も売れ続けている、大滝さん最大のヒット作だ。松本さんと大滝さんは「はっぴいえんど」時代からの盟友で、聖子さんの「風立ちぬ」も大滝さんの作曲だった。ロンバケ制作をめぐっては、さまざまなエピソードがあり、2人の絆の深さがうかがえる》

大滝さんは、とてつもなく才能がある作曲家でした。彼が書く曲は抒情性があって、スケールも大きい。その大きなメロディーを高らかに歌い上げる、稀有なボーカリストでもありました。

そして彼は音へのこだわりも人一倍強かった。楽器の多重録音が好きで、「ロンバケ」の次に作った「EACH TIME」(イーチ・タイム、59年)というアルバムもこだわり抜いた傑作でした。

大滝さんとは、「はっぴいえんど」解散(47年)以来、疎遠になっていました。でもある日、ロンバケを作るにあたって「頼みたいことがあるから松本の家に行っていいか」と彼から連絡してきたんです。

大滝さんは言いました。「松本が売れて、細野(晴臣さん、元はっぴいえんど)も売れた。俺も売れなきゃと思うんだ」と。そのために手伝ってほしいと。僕は「もちろん、書くよ」と答えました。

《「はっぴいえんど解散後の49年、大滝さんは、作詞・作曲・編曲・プロデュース・エンジニア・原盤制作・原盤管理などすべてを自らが行うプライベートレーベル「ナイアガラ・レーベル」を設立した。しかし、そのあまりにマニアックな音楽性は、プロの間では評価されたものの万人受けはせず、売り上げは低迷。起死回生を期し、ロンバケ制作に取りかかる。当初は大滝さんの誕生日の55年7月28日に発売の予定だった。ところが、作詞を引き受けた後、松本さんの身に不幸が起こる…》

妹が亡くなってしまったんです。生まれつき心臓が弱くて、そんなに長くは生きられないと早くから医者には言われていました。その後、医学がどんどん進歩して、妹は26歳まで頑張ったんですが、そこで力尽きてしまったんです。

妹は虎の門病院(東京都港区)に入院していました。国家公務員共済組合連合会が設置した病院です。父が大蔵省務めだった関係もありました。

ナースステーションをはさんで隣の病室には、当時の総理大臣、大平正芳さんが入院していて、父は、政治家や企業の重役さんなど、大平さんのお見舞いに訪れる人たちのほぼ全員にあいさつをしていました。みんな顔見知りだったんですね。病室で不安な思いを抱えながら妹の看病をする中、おやじは大変な仕事をしているんだな、と思ったりもしました。

《大平元首相は55年6月12日、容体が急変し、心筋梗塞で死去した。70歳だった》

妹が亡くなったのも、同じころでした。頭の中が真っ白になりました。

大滝さんのアルバム曲の詞をこれから書こうと思った直後のできごとでした。精神的ショックが大きすぎて、とても詞を書くことはできそうにありません。僕は、大滝さんに断りの電話を入れました。妹が入院した時点で大滝さんには伝えていたんです。「ごめん。書けない」と。(聞き手 古野英明)

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