これまで心臓移植しか選択肢がなかった慢性心不全の治療に、新たな再生医療の道が見えてきた。慶応義塾大学と筑波大学の共同研究グループが13日、心不全の原因となる心臓線維芽細胞から新たな心筋細胞を分化・再生させ、慢性心不全のマウスの心機能を改善させることに世界で初めて成功したと発表した。慢性心不全に対する再生医療として応用できる可能性を示す結果で、研究グループは「新しい心臓再生医療の実現を大きく前進させるもの」と期待を示している。
臓線維芽細胞から心筋細胞の再生を誘導
心筋細胞は再生能力が乏しく、心筋梗塞などによっていったん壊死すると、収縮力をもたない線維芽細胞や線維化組織となり、心機能が低下し、慢性心不全となる。心不全の治療は、残された心筋細胞の肥大などを防ぐ投薬治療などに限られ、線維化した梗塞巣(壊死した範囲)を退縮させる治療はなかった。
重症心不全の根治療法として心臓移植があるが、ドナー(提供者)不足などの問題があり、十分な治療の提供は困難な状況にある。一方で、近年注目を集めている、あらゆる細胞に分化できるES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いた再生医療にも、腫瘍形成のリスクのほか、組織生着率や治療効果の低さといった課題がある。
こうした課題を解決する方法として同研究グループが取り入れたのは、体細胞からiPS細胞などの多能性幹細胞を経ずに直接、目的の分化細胞へと誘導する「ダイレクトリプログラミング」という手法だ。昨年、急性心筋梗塞のモデルマウスに、この手法で心臓線維芽細胞を心筋細胞へと転換させる遺伝子を導入し、心機能を回復させることに成功している。
今回の研究は慢性期の心不全にもダイレクトリプログラミングが役立つかを調べることが狙い。心臓繊維芽細胞で心筋ダイレクトリプログラミングを引き起こす遺伝子の発現を、薬剤投与によって制御できるようにしたモデルマウスを用いて、心筋梗塞後の慢性心不全に対する治療効果を調べた。