世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済新法を巡り、政府が28日に示した条文案では、法人が寄付を勧誘する際、従来案の「禁止行為」に加えて「配慮義務」を課した。専門家は「救済のツールになりうる」と一定の評価をした一方、当事者である宗教2世からは「具体性を欠き、逆に教団などの抜け道になりかねない」と懸念の声が上がった。
条文案では、法人の配慮義務として「自由な意思を抑圧しない」「生活の維持を困難にしない」などと明記。18日公表の新法概要ですでに示していた「不退去」などの禁止行為とは異なり罰則はないが、政府側は、損害賠償請求など民法上の不法行為の責任を問いやすくなるとの立場だ。
一方、両親が旧統一教会の信者で、自身もかつて信者であった宗教2世の30代女性は産経新聞の取材に、「法人側が『配慮はしたが信者が勝手に献金した』などと主張できるような、抜け道になるのではないか」と訴える。
さらに、「自由な意思を抑圧しない」という文言にも、「具体性を欠く」と指摘。「両親は教団側から献金を勧められた際、『献金しないことは信仰に反する』などの言葉を繰り返し受けていた。そういった場合も当てはまるのか」と疑問を呈した。
民法などに詳しい元国民生活センター理事長で一橋大の松本恒雄名誉教授は、配慮義務を新設した条文案に関し、「救済に向けたツールが増えたという点ではプラス」と評価する。
一方で配慮義務の概念について、学校現場で児童生徒が負傷したケースを例示し、「学校側が即、賠償責任を負うことにはならず、適切な注意をしなかったなど、立証にはさまざまな事実の積み重ねが必要になる」と指摘。今回の条文案でも、禁止行為を含め、いずれも信者ら被害者が証拠を集める必要性があることを念頭に、「政府が見込むほどシンプルに、損害賠償などで被害金を取り戻せるかは、なお不透明だ」との見方を示した。