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野口健 富士山に見る「日本の病み」

産経ニュース
登山家の野口健氏
登山家の野口健氏

かつて外国人登山家に「世界で一番汚い山はマウント・フジ」と指摘されたのをきっかけに富士山の清掃を始めてから22年。当初はあまりのゴミの多さに圧倒され、「この状況、変えられるのだろうか」と弱気にもなった。

しかし、清掃キャンペーンの参加者は年々増え続け、多い年で年間約1万人。最大で約150トンものゴミを回収した年も。登山客のマナーも飛躍的に向上、今では5合目から上部ではゴミを見つけるのも難しいほどにきれいになった。

一方で、富士山麓では、相変わらず車からのポイ捨てや、不法投棄された産業廃棄物が後を絶たない。特に近年、急激に増えているのが「尿入りペットボトル」だ。つい先日も山麓の青木ケ原樹海に入る国道沿いを清掃したが、回収されたゴミの大半がそれだった。

これまで富士山麓ではさまざまなゴミを拾ってきた。トラックのタイヤが数千本も捨てられていたり、重たい粗大ゴミを回収している最中にギックリ腰になったことも数え切れない。確かに肉体的には重たいゴミを運ぶ方が負担は大きいが、精神的に最もダメージを受けるのは「尿入りペットボトル」なのだ。年月を経た尿は濃い茶色に変わり、ふたを開けようものなら猛烈な悪臭が立ち込める。この液体入りのボトルを拾う度に捨てた人の悪意や、屈折し、ゆがんだ「気」も一緒に拾ってしまう。その嫌な感覚はしばらく手から離れようとしない。

遠くから見たら美しい富士山、しかし、同時に病んだ一面も抱えている。「富士山は日本のシンボル」と言われるが、(プラスマイナス)両面を抱えているという意味でも日本のシンボルなのだろう。富士山で起きていることは、規模は違えども、全国どこでも同じようなことが起きている。「富士山の闇は日本の病み」でもある。

尿入りペットボトルを捨てる人たちにあえて伝えたい。「自分たちが捨てた排泄(はいせつ)物を拾う人の姿をリアルに想像してみてほしい」「自身の人格をも一緒に捨てる行為だということをしっかりと心に刻みつけていただきたい」と。

【プロフィル】野口健

のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題など、幅広いジャンルで活躍。新刊は『父子で考えた「自分の道」の見つけ方』(誠文堂新光社)。

【話の肖像画】アルピニスト・野口健 <18> ゴミだらけの富士山清掃…立ちはだかる課題

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