20日に開幕したW杯カタール大会では、従来に比べて異常に長いロスタイムが話題となっている。なぜ、これほどまでに長いのか。現地で取材している本紙の邨田直人記者(28)が大会中の様子を交え、大きく変化しつつあるレフェリングの最前線を解き明かす。
ハラハラさせられっぱなしだった。表示された後半ロスタイムは8分。しかし、攻守の主導権がいくら移り変わっても試合が終わらない。メディアセンターのモニターをのぞき込む。隣のスタッフが何度も「オーマイガー」とつぶやく。22日の第1試合。サウジアラビアが強豪アルゼンチンから2-1で金星を挙げた瞬間、画面端に示された時計を見ると、8分のはずだったロスタイムは「13分49秒」と記されていた。
なぜ、これほど長くなったのか。もともとのロスタイム8分の間に、サウジアラビアが味方同士で接触して負傷。その治療に使った時間がそのまま追加されたからだ。
今大会は、プレー以外で失われた時間が厳密に追加されている。18日に行われた審判ブリーフィングで、国際サッカー連盟のピエルルイジ・コリーナ審判委員長はこう言った。
「ゴール後のセレブレーションは1分から1分半かかる。3得点なら5分、6分の時間を失うことになる。私たちが本当にやりたいことは、追加される時間を正確に計算することです」
スキンヘッドと強烈な目力が特徴で、02年日韓大会で毅然(きぜん)と試合を進めたことで話題になった元主審である。これまで得点後の喜びや、ロスタイム中の治療に要した時間は厳密に計らず、審判の裁量に任せていた。しかし、コリーナ氏はそれ以外にも、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)による映像の確認など、あらゆる中断を正確に計ると説明。今大会から人工知能(AI)を用いたオフサイド判定が導入され、VARによる中断はさらに増えた。そのしわ寄せが異常に長いロスタイムとなって現れている。