「越境電子商取引(EC)」による国境を越えた商品の売買が増えている。海外の商品を購入する消費者だけでなく、新たな販路の開拓に活用する中小企業も少なくない。外国為替市場の円安傾向で、海外販売で得た外貨をより多く円に両替できるメリットも追い風となっている。
平成29年の設立で、オーガニックコットンを使ったベビー服の製造・販売を手掛ける「Sunday(サンデー) Morning(モーニング) Factory(ファクトリー)」(福岡市)は約2年半前、台湾向けの越境ECモール「Shopee(ショッピー)」に出店した。
日本での売れ筋商品を持ち込んだ当初の販売は振るわなかったものの、現地の消費者の声を分析して商品展開を工夫したところ、売り上げが好転したという。
■少子化による国内需要縮小の対策
同社はもともとECを販路の軸としており、越境ECに挑んだのは「事業拡大の一環」(中村将人社長)。少子化に伴い国内需要の縮小が進むとの判断もあった。台湾での成功を受け、1年前から巨大市場の中国での越境ECにも取り組んでいる。
越境ECでの商品販売は同社のように海外のECモールに出店するか、自社サイトを展開するかの選択になる。IT(情報技術)の活用で翻訳や税関などの手続きなどが比較的容易になったとはいえ、ハードルが高いと感じる事業者も少なくない。
■日本商工会議所などがサポートブックを作成
そこで、日本商工会議所と東京商工会議所は10月、越境ECで海外需要の取り込みを目指す中小企業の不安を解消するため、基礎知識のサポートブックを作り、ホームページで公開した。サポートブックには開店と集客、運営の方法をはじめ、決済方法や関税、規制、物流など海外取引に不可欠な貿易実務の概要を盛り込んでおり、担当者は「越境ECの全体像や出店のイメージの把握に役立ててもらいたい」と話す。
自力で越境ECに参入するのが難しい場合は、税関への申告手続きや海外への商品発送を代行し、ECサイトの立ち上げも支援する専門の会社に関連業務を委託する方法もある。
■日本のおもちゃ・ゲーム・アニメグッズが人気
越境ECでは日本のどのような商品が購入されているのだろうか。110以上の国・地域で配送実績があり、越境EC支援の国内大手、BEENOS(ビーノス)グループが7月に米国と英国、台湾、マレーシアの越境ECユーザーを対象に調べたところ、分野別では「おもちゃ・ゲーム・アニメグッズ」が最も多く、中でも米国は半数強を占めた。
米国と英国の2位は「本・CD・DVD・エンタメ」で、同社は「日本のコンテンツの強さが表れた」と分析。台湾は「ファッション」、マレーシアは「リユース品」が2位となり、体格や生活様式で日本と親和性があるアジア圏ならではの特徴がみられた。
日本発の越境ECは年々拡大している。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査報告書」によると、消費者が事業者から購入した商品の総額は推計で中国が6064億円、米国が4868億円だった2014年と比べ、昨年は中国が3・5倍の2兆1382億円、米国が2・5倍の1兆2224億円に伸びた。
■円安で日本製品の割安感が高まる
日本製品の割安感が高まる円安の影響も大きい。4カ国・地域を対象としたBEENOSの調査で、全体の6割強が円安で越境ECの利用頻度や購入額が「増えた」と回答。全体の9割以上が訪日旅行を望んでいる。
インバウンド(訪日外国人観光客)と越境ECは関係性が深い。日本貿易振興機構(ジェトロ)の平成29年の調査によると、中国人が越境ECで日本の商品を購入した理由(複数回答)を尋ねたところ、4割が「日本への旅行で購入して気に入った製品だから」を挙げた。
新型コロナウイルス禍で激減したインバウンドが回復すれば、越境ECの需要増が期待できる。海外に直接出店する余力のない中小企業にとって新規参入の絶好の機会になりそうだ。