政府が進める「全世代型社会保障」の年金、医療、介護の制度改正をめぐる議論が本格化している。「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」といった従来の構図を改め、高齢者にも経済力に見合った負担をしてもらい、現役世代の負担軽減を図る。政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」が12月に令和22(2040)年ごろまでを見据えた改革工程表をまとめ、抜本的な制度改正を目指す。
細る財政の支え手
議論の場になっているのは、主に厚生労働省の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の年金、医療保険、介護保険の3部会だ。
年金分野では、自営業者や非正規労働者らが加入する国民年金の保険料の納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から、65歳未満まで5年間延長できるかが焦点だ。7年の次期年金制度改正に向け、議論を積み重ね、結論を得る。
厚労省によると、65歳以上の高齢者人口がピークを迎える22年ごろには、国民年金を受け取る水準が現在より3割程度下がる可能性がある。少子高齢化が進む中、年金財政の支え手を増やすため、納付期間を延長し、財源を手当てする狙いがある。
会社員らが加入する厚生年金では、パート従業員らが加入できる要件の緩和が検討されている。現行では従業員が101人以上の企業のパート従業員らが厚生年金の加入対象で、6年10月に51人以上まで引き下げる方針が決まっているが、年金財政を支える労働者をさらに増やすため、企業規模の要件を完全に撤廃する方向だ。
医療改革でも負担増
高齢化の進展に伴い医療費がかさみ、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の見直しも進んでいる。
10月から一定の所得がある75歳以上は病院の窓口で支払う医療費の自己負担の割合が従来の1割から2割に引き上げられたばかりだが、負担拡大に向けた議論は続いている。
75歳以上の医療費は、窓口負担を除き、9割が公費と現役世代の「支援金」でまかない、75歳以上が負担する保険料は1割にとどまる。
政府は所得が高い75歳以上の高齢者(約1%)を対象に、年間に支払う保険料の上限額を現行の66万円から80万円程度に増やす方向だ。中所得者の75歳以上も経済力に応じて引き上げる。
65~74歳の前期高齢者の医療費に関しても、給与水準が高い大企業の社員らが入る健康保険組合の負担を増やし、保険財政を安定させる方向だ。政府はいずれも令和6年度に開始したい考えだ。
また、自営業者らが加入する国民健康保険は少子高齢化による財政の悪化を受け、来年度からは、保険料の上限額を2万円増の87万円にまで増やす。
介護サービスの利用控えも
3年に1度の介護分野の制度見直しでは、65歳以上の介護サービスの利用に伴う自己負担の割合が最大の注目点だ。現在は原則1割負担で、「一定以上」(単身で年収280万円以上など)の所得があれば2割、「現役並み」(同340万円以上など)の所得ならば3割を負担している。介護サービス利用料の自己負担を2~3割とする対象者の拡大が検討課題として挙げられている。
他に65歳以上が支払う保険料も支払い能力に応じて見直す。一定以上の所得がある高齢者は引き上げ、所得が一定以下ならば引き下げる方向だ。
介護保険の在宅サービスの利用に必要な「ケアプラン」(介護サービス計画)も現在は自己負担はかからないが、今後は有料化する可能性が出ている。(村上智博)