政府は今後の防衛費増額に充てる財源の一つとして、厚生労働省所管の2つの医療系独立行政法人に対し、積立金(利益剰余金)の国庫返納を前倒しで求める方向で調整に入った。独法は関連法で業務運営計画である中期目標期間の終了時に保有する積立金を国庫に納めることが定められているが、期間途中での返納は異例。防衛費増額の財源は年末の国家安全保障戦略など「安保3文書」改定に合わせて決める必要があり、早期返納はこれに道筋を付ける狙いもある。
返納を求めるのは、全国有数の公的医療機関グループである国立病院機構(NHO、楠岡英雄理事長)と地域医療機能推進機構(JCHO、山本修一理事長)の2法人。令和3年度の積立金はNHOが819億円、JCHOが675億円となっている。
両法人は、政府が新型コロナウイルス流行時の病床確保に向けた補助金を支給し始めた2年度以降、収益が急速に改善した。計87ある独法の中でも積立金が突出して増えたことから、早期の国庫返納を求める。
JCHOは、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長が今年3月末まで理事長を務めていた。コロナ病床だと申告し、補助金を受け取りながら患者を受け入れない「幽霊病床」の存在も指摘されていた。
両法人の中期目標期間はともに5年度までの5年間で、積立金の返納は通常ならば6年度となる。
政府は防衛費増額の財源確保策の一つとして両法人の積立金を計上するため、今月に入り、両法人に早期の国庫返納を求める方向で検討に入った。独法の関連法には国庫に前倒しで返納する規定がないため、新たな立法措置も検討する。
独法による早期の国庫納付を巡っては、東日本大震災の復興財源にあてるため、平成23年度に特例法によって鉄道建設・運輸施設整備支援機構が積立金1・2兆円を納付した例がある。