ソウルの繁華街・梨泰院で155人が死亡した雑踏事故を受け、兵庫県警が平成14(2002)年に作成した「雑踏警備の手引き」が、SNSで注目を集めている。兵庫県明石市で13年に発生した歩道橋事故を教訓に、警備担当者向けにまとめられた冊子だが、SNSでは「一読の価値がある」「日常行動を振り返る上でも役立つ」といった意見が寄せられている。
明石市では平成13年7月、同市で行われた花火大会の見物客が歩道橋上で転倒し、11人が亡くなる事故が発生。当時の警備体制も含めて事故後の対応が注目された。事故を教訓に県警が作成した手引きは全120ページ。「雑踏の脅威」「群集」「雑踏警備の計画から実施まで」など6章で構成されており、県警のホームページ(HP)でも一般公開されている。
手引きでは「低い位置を探しても、かがむことができなかった」「人混みに押され、体が宙に浮き、息苦しくなり、胸と左足に痛みを感じた」といった、明石市の歩道橋事故に遭遇した人たちの証言を紹介。また、「群集心理」の項目では「繁華街等の混雑した通りでは、歩行者は自然と左側に通行していることが多い」「横断歩道では、横断帯からはみ出して斜めに横断する人が多い」と群集心理の特性を指摘しているほか、「人の流れをぶつからせない。一方通行が大原則」「待たされている群集の気をそらす工夫をする」「時差入場、時差退場を行って、群集密度を時間的に分散させる」などといった警備担当者向けのアドバイスも記載されている。
ソウルで発生した雑踏事故を受け、ツイッターではこの手引きを取り上げるユーザーが増加。「誘導のノウハウなど警備だけじゃなく、雑踏に巻き込まれた時の心構えも読み取れる」「雑踏を構成する人の行動心理、雑踏の性質、警備の意義が丸ごとわかる内容」「こういう文書は積極的に共有して社会の中で生かされるべきだ」といった意見や、「これは世界にも周知されてほしい」として、手引きの翻訳を望む意見もあった。
20年前に作成された冊子がSNSで注目されていることについて、兵庫県警地域企画課は産経新聞の取材に「手引きを活用してもらうことで、事故を未然に防ぐことができれば」としている。(浅野英介)
マニュアル不在 事前協議なし 警備の警官140人足らず 責任追及焦点に