全国を対象とする観光支援策「全国旅行支援」が11日から始まる。この日から新型コロナウイルス禍で取られていた水際対策も緩和され、個人旅行の受け入れが解禁されるなど海外から日本への観光旅行もしやすくなる。感染再拡大や人手不足などの懸念は残るものの、新型コロナで長く〝冬の時代〟が続いていた観光業界にとっては、大きな転換点となる見通しだ。
「政府の後押しはありがたい。本格的な観光需要の回復につなげたい」。日本旅行の担当者は全国旅行支援について、そう意気込みを語る。感染対策と経済の両立を目指す「ウィズコロナ」に移行する中で、今年は夏休み期間中も政府による行動制限は行われなかった。しかし、日本旅行でも国内旅行の申し込みはコロナ禍前の6割程度だったという。それだけに政府支援を起爆剤にしたいと期待が高まっている。
全国旅行支援はこれまで近隣への旅行を対象としてきた支援策「県民割」を全国に拡大させる取り組みで、事業に参加するツアーや宿泊施設などを利用した場合、旅行代金の割引と旅先の飲食や買い物などに使えるクーポンを合わせ、1人1泊当たり最大で1万1千円の支援が受けられる。参加するにはワクチンの3回接種や、陰性証明の提示も必要となる。
2年前に行われた「Go To トラベル」と似ているが、事業の実施主体を国から都道府県に移し、新型コロナの感染状況を踏まえて各地域で中断や再開を柔軟に判断できるように見直した。その分、東京都だけは20日から開始するなど、都道府県で対応が異なり制度が複雑化。旅行前に旅行会社や都道府県のホームページなどで確認しておく必要がありそうだ。
11日からは美術館や遊園地、スポーツ観戦などが2割引き(上限2千円)で楽しめる「イベント割」も始まるため、これらを組み合わせて旅行を充実させることも可能だ。水際対策も個人旅行やビザなし渡航が解禁されるなど大幅に緩和されることから、訪日外国人観光客(インバウンド)の増加にも期待が集まる。
懸念されるのは、人の動きが活発化することに伴うコロナ感染の拡大だ。さらに、観光地では人手不足への懸念も付きまとう。コロナ禍前も、宿泊施設や飲食店などでは人手不足が大きな課題となっていた。コロナ禍で雇用を絞った事業者も多く、大和総研の中村華奈子エコノミストは「新たな雇用が確保できず、需給のミスマッチが生じる可能性がある」と話す。
水際対策の緩和も、中国が厳格な「ゼロコロナ」政策を取り続けていることもあり「本格的なインバウンドの回復は、来年以降になる見通し」だという。(蕎麦谷里志)