高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムを限られた範囲で展開する「ローカル5G」の普及に向けた動きが川崎市内で加速している。大企業が実用化のための実証施設を拡充しているほか、市内の病院では官民が連携して医療現場での実証も行われている。デジタル化の流れが加速する中、ローカル5Gの新たな活用方法の発信拠点になろうとしている。(大島直之)
ローカル5Gは企業が特定の建物、敷地内に専用ネットワークを構え、高速大容量、低遅延で1つの基地局で多くの端末に接続できる。工場や物流拠点で数百台のロボットをケーブルなしで制御できるなど、さまざまな用途での活用が期待されている。
富士通は令和3年12月、富士通新川崎テクノロジースクエア(幸区)内に、実証施設「FUJITSUコラボレーションラボ」を従来の1・5倍超に増床した。ローカル5Gを使ったサービス提供などを目指しており、今年8月現在、約30社と共同で研究開発や実用化への実証に取り組んでいる。
安定して大容量データで接続するローカル5G環境を使えば、従来のセンサーではとらえきれなかった人や物の動き、状態を高精細映像で確認できる。施設での実演では、天井に設置したカメラが無人搬送車両の位置や運搬する場所を正確に把握し、荷物をミリ単位で目的の場所に運ぶ。
富士通は「製造、搬送などものづくりの現場からの引き合いが増えている」としている。
NECは6月、玉川事業場(中原区)内に実証施設「NEC CONNECT 5G Lab」を開設した。令和2年に設立していた既存施設を拡充する形で整備し、企業の課題に対応するローカル5Gシステムの設計、技術検証などを手がける。
顧客がロボットなどの機材を持ち込み、Wi―Fi(ワイファイ)など他の通信に比べて滑らかな動きが可能なローカル5Gの有効性を確認することができる。NECは「製造業、物流など幅広い業種でニーズがある」と説明する。
一方、川崎市、聖マリアンナ医科大、NTTドコモなどが連携して聖マリアンナ医科大病院(宮前区)の救急医療で実証に取り組んでいる。多数の救急搬送を受け入れる際は迅速、正確な対応が重要となり、実証では高精度映像を使った医師間のやりとりや、医療機器からの大容量動画転送などを実施した。
川崎市は市内にある病院との実証結果の共有などを通じてローカル5G活用を後押ししていく。