北川信行の蹴球ノート

INAC神戸の名物「DJ83」がマイクを置いた理由

産経ニュース
広島戦で先発メンバーを発表する「DJ83」ことINAC神戸の安本卓史社長=J-GREEN堺(北川信行撮影)
広島戦で先発メンバーを発表する「DJ83」ことINAC神戸の安本卓史社長=J-GREEN堺(北川信行撮影)

サッカー女子プロ、INAC神戸レオネッサの名物MCとして知られていた「DJ83(やっさん)」が静かにマイクを置いた-。最後のパフォーマンスは、9月25日に堺市のJ-GREEN堺で行われたWEリーグカップ1次リーグB組最終戦のサンフレッチェ広島レジーナ戦。いつものように背番号83のユニホームを着てピッチサイドに立ち、先発選手の名前を読み上げるなどしてスタンドの観客をわかせた。

「DJ83」の正体は、INAC神戸の安本卓史社長。約3年前に単発の企画として登場したが、納得のいくパフォーマンスができなかったため再登板が決定。その後はホーム試合の呼び物の一つとして定着し、これまで約30試合でマイクを握ってきた。さまざまなことに自らチャレンジする異色の社長として注目され、昨シーズンにWEリーグ初代女王となったINAC神戸の人気向上に一役買ってきたが、「社長が表に出るのではなく、主役の選手たちをサポートする側に回りたい」との思いが強くなったのがスタジアムDJからの〝引退〟の理由だ。

一方で、リピーターを増やすための新たな取り組みも開始した。その一つが、パナソニックの「CHEERPHONE(チアホン)」を活用した無料のライブ音声解説サービス「INAC-WAVE」で、さっそく広島戦で試行。裏話なども交えた濃い情報を観客に伝えていく方針で、安本社長は「スタジアムに来ているお客さんに、INAC神戸のことをより深く理解してもらうことに携わりたい」と「DJ83」の新たな役割を説明する。今夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)で準優勝した東京・十文字高の総監督で十文字学園女子大教授の石山隆之さんとの共著『前例がないことをやってみる』(徳間書店)も出版した安本社長に2季目のWEリーグ開幕に向けた課題などを聞いた。

自分たちを知ってもらう

広島戦で自ら先発メンバーを発表するINAC神戸の安本卓史社長=J-GREEN堺(北川信行撮影)
広島戦で自ら先発メンバーを発表するINAC神戸の安本卓史社長=J-GREEN堺(北川信行撮影)

--石山さんと本を出された

安本「昨シーズンが始まる前に大宮に行く用事があって、佐々木則夫さん(日本協会女子委員長)に紹介していただきました。なぜか本を出しませんかという話になって、優勝したら本を出すことになったんです」

--石山さんが率いる十文字高は9月中旬に行われた18歳以下の女子サッカーチーム日本一決定戦で準優勝した。若い世代は素晴らしい選手が多い。安本社長も少し前にツイッターでアカデミーの整備について言及していた

安本「僕は今年は普及に取り組もうと思っているんです。(チーム始動時に行った)選手とのミーティングでも、普及に取り組む話をしました。普及とは何かと言ったら、サッカーをする子供を増やす、サッカーの楽しさを伝えることですよね。それには、やっぱり見てもらわないといけない。プレーしている自分たち、選手たちがサッカーを楽しみ、楽しいサッカーをしないといけない。その原点に立ち返ろうと思います。

もちろん、連覇は目指します。苦労があって、簡単な道のりではないということは、選手たちは最初の1年で、分かっています。その部分は強化ですよね。もう一つ、例えば、自分たちのことを知ってもらうことにも力を注ぎたい。選手自身もそうだし、女子サッカーという競技も知ってもらう。そのためには、苦しいだけではダメでしょう。

(レジェンドの)澤穂希さんからも提案がありましたが、特にエンターテインメントの部分、見に来て楽しいというところです。端的にいうとゴール。0-0とか1-0の試合もいい試合ですが、サッカーをあまり知らないお客さんにとって非日常の瞬間は、勝って喜ぶとか、ゴールして喜ぶだと思うので、その辺を選手たちにも、自分たちで考えてほしいと言っています。そしたら、ゴールパフォーマンスを考えようとか、もっと『You Tube』で発信しようとか、SNSをもっと使うとか…。いろんな意見がどんどん出てきました。

そのことにプラスして、どんな人たちに最も試合を見てほしいかと言ったら、やっぱり子供たちですよね。今までのファンももちろん大切ですが、子供たちに選手たちのプレーを見てほしい。それから本当の普及の意味で言うと、中学生、高校生のチームの練習に行きたいと思っています。幼児や小学生のサッカー教室も行いますが、女子サッカーを分かってきて、選手たちのことも知っているであろう中学生や高校生のところに行って、一緒にサッカーをするということをしたいと考えています」

選手が地元の祭で登壇する

--地元の神戸市内の中学校や高校を選手たちが訪れるということですね

安本「プロと一緒に練習してみたい学校を公募するとか。(野球少年だった)僕が子供のころに憧れていたのは、(阪神タイガースの)掛布雅之さんや岡田彰布さん、バースさん。そういう人たちと一緒に練習できたら、どんなに楽しかったか。野球界でも野球教室みたいなものはありましたが、もう少しレベルを上げ、チームとしてプレーを見せることなどをしていきたいという話が出てきました。選手は選手でWEリーグ初年度を戦い、優勝という勲章を得た上で、何が必要かというのを、かなり考えてくれています」

--選手側からもいろいろな話が出たのは、地元の住吉小学校で部屋を借りて開催した4時間超のミーティングのときですね

安本「そうです。かなりありましたね。やってよかったです、あの座学は。学校でやったというのもよかった」

試合前に整列するINAC神戸の選手ら=J-GREEN堺(北川信行撮影)

--その中から生まれたものとして、安本社長や選手たちが積極的にSNSで発信したり、地元のイベントに関わったりするようにもなっている

安本「この間、(神戸市中心部の)湊川神社の夏祭に行ったのも、そうです。元々はブースとかを出すつもりだったんですけど、たまたま(スポンサー企業の)川崎重工業に表敬訪問した帰りに、一緒に行った選手たちに『ちょっと顔出すか?』と聞くと、『行く』と。急遽(きゅうきょ)、ステージに上げていただいて…。じゃあ、選手の皆さんせっかくですから、いろいろお話しくださいと。選手たちは最初『社長も一緒に』と言ったのですが、僕は『いや、今年は違うやろ』と。社長はあまり表に出ない。(主将の)三宅史織も上手にしゃべりました。選手を知ってもらうために僕がしゃべっていると、僕のトークになってしまう。それだけで『あーINACか』で終わってしまう。選手を知ってもらう意味では、選手が登壇しないといけない。(GKの)山下杏也加は歌まで歌いました」

--なるほど。そうやって選手たちが前面に出ていくわけですね

安本「そうです。これやったらいけるな、という手応えもありました。それで、もうDJもいいかなと。3年もやったし、次は違う人にやってもらって、僕はもう少しコンテンツをより知ってもらうところに携わりたいなと。今、スタジアムに来ているお客さんって、何回も来ていただいていると思うんですけど、もっと深く理解してもらえたらどうかとか」

--一見(いちげん)さんを増やす取り組みと、一見さんをリピーターにする取り組みの両方があると思います。むしろリピーターを増やすところ、深く理解してもらうところに、関わっていきたいということですね

安本「今年は表にあまり出ず、裏でもっとより濃い情報を補足的に、発信していきたいと思います。(サッカーに打ち込んできた)20代、30代の選手たちは、一般社会の経験はそんなにはないでしょう。そういう選手たちが一生懸命PRすることをサポートしてあげる。そっちに回ろうかなと思っています」

憧れの選手は必ずしもなでしこではない

--WEリーグ開幕から1年たち、そういうところをテコ入れする必要性を感じているのでしょうか

安本「チームや選手のことを知ってくると、応援したくなるものです。面白いのはサッカースクールに通っている子供たちに誰のファンかを尋ねると、必ずしもなでしこジャパンの選手じゃないんですよ。スクールに一緒に来てくれている選手のことが好きになる。そして、ファンになって自然に応援するという傾向があります。有名だからとか、レギュラーだからとか、ということよりも、そっちなんです。だから、INAC神戸の選手として知ってもらうのが大切です」

--そこは、男子とは傾向が違う気がします

安本「もう明らかに違いますね」

--INAC神戸のスクールの子供たちだったら、普段から慣れ親しんでいるINAC神戸の選手が憧れになる方が多いということですね

安本「傾向的に、そうです。男子のサッカー選手、ファンもそうですけど、Jリーグだけでなく、海外とか、いろんなサッカーを見ますよね。女子の選手はそういうものに興味がある選手ももちろんいますが、自分たちのプレーに集中する選手も結構多い。その傾向があるので、逆手にとるというか、知ってもらったら、子供のころからINAC神戸のファンになってもらいやすいと思います」

--「推し選手」というか、個々の選手につくファンになってくれるということですね

安本「結局、誰々選手のファンというのが多いんですよ。たとえばヴィッセル神戸のサポーターには神戸のクラブだからという思いがありますが、女子はやっぱり選手につく傾向がありますね」

育てるバルサスタイルも必要

--そういう部分をうまく活用し、INAC神戸の普及を進める、あるいはWEリーグの盛り上げにつなげたいということですね

安本「スクール生が今、約180人います。社長になったときから5倍ぐらいになっています。もっと入りたい子供たちはいるはずなんです。それは、もう未来ですね。5年後かもしれない。でも5年後、10年後に向けてそういう取り組みをしていることによって、未来が変わってくる。INAC神戸は今、(スペインの強豪の)レアル・マドリード化しているというか…。補強の部分も、集めて集めてなんですけども、それも大事ですが、地域やスクールから子供たちがアカデミーに上がり、さらにトップチームに上がってプレーするようなバルセロナスタイル、バルサスタイルも必要なんです。

クラブ経営の観点からも、半分ぐらいの選手はアカデミーから上がってくるようにしたい。阪神の岡田監督のように、子供の時から阪神ファンで、阪神に入団して、阪神で活躍して…。そういう子供たちを増やしたいと思います」

--神戸で育った神戸の女の子が将来、INAC神戸でプレーしたいと…。

安本「なので、神戸市サッカー協会や兵庫県サッカー協会とも連携を深めていこうと思っています。10月23日の開幕戦が終わった後のピッチで、神戸市リーグのU-12女子の試合をしたいと思っています。公式戦にはならなかったんですけども。ノエビアスタジアム神戸やヴィッセル神戸の協力もあって、ようやく実現しそうです。あこがれの世界、目指す世界はINAC神戸なんだよというアピールになります」

2年目にこけたら3年目はない

--WEリーグ2年目の危機感みたいなものはありますか

安本「いや相当あります。ロシア、ウクライナ問題、物価高…。スポンサー集めが実は苦戦しています。当然、自分たちも経費削減をしないといけない。正直、優勝してもこれかと思う部分もあります。だから結局、広告価値というよりも、女子スポーツ、女子サッカーを支えていただけることへの感謝をもう少し出していかないといけない。10月に入れば、企業訪問を行いますが、選手を連れて行きます。現在協賛していただいている会社には、従業員の方もいらっしゃるわけですから、うちの会社が応援してるINAC神戸は、選手も会社に来てくれたと思ってもらえるようにしたい」

--顧客満足度。スポンサー満足度を高めるということですね

安本「広告効果でこうです、というよりは応援して、INAC神戸が勝利したり、いい試合をしたりして、そこで選手を知ってもらって…。だからスクールや普及と一緒ですよね。スポンサー企業の従業員、スタッフの皆さんにも、普及していく、ファンになってもらうということです」

--同じことはリーグ自体や他のクラブにも言えそうです

安本「資金繰りは厳しいですよね。その中でもINAC神戸が牽引(けんいん)してきた自信というか自負はあります。2年目はいろんな工夫をし、アイデア、知恵を絞って顧客満足度を上げる。もうこれしかないと思います。スポンサー企業にまた応援したいと思ってもらい、ファンにもまた来たいと思ってもらうことですね。

コスト削減ばかりだと、どうかなと思います。いつまでも広告代理店や日本協会に頼りっぱなしだと、うまくいかない気がしています。リーグが自分たちでスポンサーを探す努力をする必要があります。WEリーグはプロの興行ですから。お金がないのなら、自分たちでつくらないとしようがないですよね」

--もちろん削れるところは削る

安本「INAC神戸は特殊ですよ。社長が強化部長を兼務している。いろんなものを組み合わせたら、たくさんの人はいらないんですよ。女子の運営規模でいうと、強化部長を招聘(しょうへい)するんだったら、若い選手を2人取れますね。もしくは社員を増やせる。フロントのスタッフを増やすべきです。Jリーグのように潤沢に資金があって、いろんな役割の人がいるならいいんですけど、小さな規模で同じことをやるのは難しい。できる人は1人で2役3役するしかない。極論すると、女子サッカーに情熱のある人が携わらないといかんと思います」

--勝負の2年目ですね

安本「絶対そうです。2年目にこけたら、3年目はないつもりでやっていますし。2年目にその数字が出なくても、このままいけば、きっと2、3年したらもっとスタンドにお客さんが来るという手応えが見えてくると、未来が出てくると思います」

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