第210臨時国会が3日召集され、岸田文雄首相は同日午後、衆院本会議で所信表明演説を行った。演説の全文は以下の通り。
一 はじめに
第210回国会の開会に臨み、日本を守り、未来を切り開く覚悟を新たにしています。
足元の物価高への対応に全力をもって当たり、日本経済を必ず再生させます。多層的な外交の展開と防衛力の抜本的強化を通じて、アジアと世界の平和と安定を断固守り抜いてまいります。
世界規模の物価高。急速に厳しさを増す、安全保障環境。
2年半にもわたって世界を苦しめてきている感染症危機や、エネルギー・食料危機、さらには、温暖化による気候危機。
半年以上も緊迫した情勢が続く、ロシアによるウクライナ侵略。
国際秩序を揺るがす、地政学的挑戦。大きな変わり目を迎える、核不拡散体制。
今、日本は、国難とも言える状況に直面しています。
世界が、そして日本が直面する歴史的な難局を乗り越え、わが国の未来を切り開くため、政策を、一つ一つ果断に、かつ丁寧に実行していきます。
どんな困難も、皆が力を合わせ、一歩一歩前に進むことで、必ず乗り越えることができる。
先日訪問した福島で、私はその思いを一層強くいたしました。
長期にわたり、帰還が困難とされた区域への住民の帰還。
55の国と地域のうち、43の国と地域での輸入規制の撤廃。
産業創出の拠点となる、福島国際研究教育機構の設立。
私に、復興に向けた強い思いを語ってくれた町役場の職員。
福島を、「ワクワクするような地域にしていきたい」と語ってくれた移住してきた若者。
多くの皆さんの力により、福島は、着実に、復興に向け、歩みを進めています。
東日本大震災という未曽有の国難からも、立ち上がることができました。そうであれば、今われわれが直面する困難も、必ずや、乗り越えていける。私は、そう確信しています。
共にこの国の未来を見据え、歩みを進めていこうではありませんか。
二 政治姿勢
先週執り行った安倍晋三元首相の国葬儀は、厳粛かつ心のこもったものとなりました。海外からお越しになった多数の参列者の方々から寄せられた弔意に対し、礼節をもって、丁寧にお応えすることができたと考えております。その際、国民の皆さまから頂いたさまざまなご意見を重く受け止め、今後に生かしてまいります。
また、旧統一教会との関係については、国民の皆さまの声を正面から受け止め、説明責任を果たしながら、信頼回復のために、各般の取り組みを進めてまいります。
政府としては、寄せられた相談内容を踏まえ、総合的な相談窓口を設け、法律の専門家による支援体制を充実・強化するなど、悪質商法や悪質な寄付による被害者の救済に万全を尽くすとともに、消費者契約に関する法令等について、見直しの検討をいたします。
国民の皆さまからの厳しい声にも、真摯(しんし)に、謙虚に、丁寧に向き合っていくことをお誓いいたします。「厳しい意見を聞く」姿勢にこそ、政治家岸田文雄の原点があるとの初心を、改めて肝に銘じながら、首相の職責を果たすべく、全力で取り組んでまいります。
三 経済政策
日本経済の再生が最優先の課題です。
わが国は、新型コロナウイルス禍を乗り越え、社会経済活動の正常化が進みつつあります。しかし、足元では、ロシアによるウクライナ侵略と円安によるエネルギー・食料価格の高騰、世界の景気後退懸念が、日本経済の大きなリスク要因となっています。
新しい資本主義の旗印の下で、「物価高・円安への対応」、「構造的な賃上げ」、「成長のための投資と改革」の3つを、重点分野として取り組んでいきます。
四 物価高・円安対応
まず、「物価高・円安への対応」です。
われわれは、食料品とエネルギーを中心に、生活に身近な商品の値上がりが続く事態に対し、機動的な対応を行ってきました。
先月には、食料品やガソリンの値上がりを抑えるための追加策を取りまとめました。特に家計への影響が大きい低所得世帯向けに、緊急の支援策を講じました。
間を空けることなく、今月中に、総合経済対策を取りまとめ、何としても、この物価高から、国民生活と事業活動を守り抜きます。
食料品については、既に輸入小麦価格、配合飼料の負担を10月以降も据え置く措置を講じています。
これから来年春にかけての大きな課題は、急激な値上がりのリスクがある電力料金です。家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます。
さらには、エネルギー安定供給の確保、再エネ・省エネの推進、農産物の国内生産を通じた食料安全保障の確保など、エネルギー・食料品について、危機に強い経済構造への転換に取り組みます。
円安に対しては、これらの対応と併せ、円安のメリットを最大限引き出して、国民に還元する政策対応を力強く進めます。
今月11日から、ビザなし渡航、個人旅行再開など、インバウンド観光を復活させ、訪日外国人旅行消費額の年間5兆円超の達成を目指します。全国旅行支援やイベント支援も再開し、コロナ禍からの需要回復、地域活性化を図ります。
さらに、円安メリットを生かした経済構造の強靱(きょうじん)化を進めます。半導体や蓄電池の工場立地、企業の国内回帰や、農林水産物の輸出拡大などに取り組みます。