プログラミング教育が小中高校の各段階で令和2年度以降必修化となり、プログラミングに特化した学習塾の設立が相次いでいる。大手学習塾や予備校のカリキュラムも充実。次世代を支えるIT人材の育成は、政府の成長戦略に組み込まれているが、プログラミングを学ぶ教科「情報」の教員不足が常態化し学習環境の整備は喫緊の課題といえる。子育て世代の多くが学校教育でプログラミングを学んでいないことから家庭学習も難しく、プログラミング塾への期待が高まっている。
家庭でも知識生かす
「登場するキャラクターに基本と違う動きをつけたい」
「街のデザインができるゲームを作りたい」
東京・渋谷駅そばの高層ビルにあるシーエーテックキッズ(東京都渋谷区)が運営するプログラミング塾に集まった小中学生は、各自が作成しているゲームのプログラム内容を考えていた。
テックキッズでは、世界的にプログラミング学習の導入編として使用されている「Scratch(スクラッチ)」などの言語で基本学習を展開。さらに進んだ段階では、プロの開発現場と同様のプログラミング言語を使ったアプリケーションやゲーム作成なども学べる。塾生の中には、ゴルフが趣味の祖父のためのスコアを記録するアプリや冷蔵庫内の材料を入力して料理を提案するアプリといった、実用的な開発に結び付けたケースもあるという。
テックキッズは平成25年に参入した国内のプログラミング塾業界でも古参の一つで、多くのIT技術者を抱えるサイバーエージェントグループの子会社。世界的にIT人材の獲得競争が激しくなる中、同グループの役員会議では早い段階からの育成の重要性が共有され、「プログラミングを習わせるなら小学生くらいからではないか」との意見が出たことが設立のきっかけとなった。
業界の競争激化も
近年、大手学習塾を含め、プログラミング塾への参入が相次いでいる。また、大手予備校もプログラミングを含む教科「情報」の授業を充実させるなど、注目は高まる。背景にあるのは学校現場での人材不足と家庭学習の難しさだ。
プログラミングを含む「情報Ⅰ」が共通必修科目となった高校では専門教員不足が常態化。文部科学省が9月に発表した調査結果では、情報教員の新規採用で地域差があることが判明している。都道府県別に高校の情報教員の採用者数は神奈川が11人と最も多く都市部で採用者数が多い傾向だが、青森、三重、奈良、愛媛の4県では採用がなかった。教育現場での人材不足が一層進み、授業の質の低下につながることが懸念される。
また、現在の子育て世代はほぼ、学校教育でプログラミングを学んできていない。東京都内に住む男性会社員(48)は「国語を学ぶ上での基本的な読み書きや読書、算数を始めるための簡単な計算は教えることができるが、プログラミングとなるとお手上げになる」と、小学校低学年の長男をプログラミング塾に通わせることにした。
小学6年と中学3年を対象に実施した令和4年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)では、算数でプログラミングに関する設問が初めて登場。令和7年度の大学入学共通テストでは出題対象に情報を追加され、国公立大も同年度の入試で情報を加えた6教科8科目の共通テスト受験を原則とすることを決めるなど、子供のうちにプログラミングの知識を当たり前に身に着ける必要がある時代が到来している。
テックキッズスクール事業部の稲森史門(しもん)さんは「現状では公教育に限界がある」と指摘。「プログラミング塾の需要は増え続ける一方、塾の品質の部分で競争が激しくなるのではないか」とみている。(大泉晋之助)