家族がいてもいなくても

(751)究極の自己中心

産経ニュース
イラスト・ヨツモトユキ
イラスト・ヨツモトユキ

引き戸を開けたら、白萩の花が目に飛び込んできた。

朝の光の中、こぼれんばかりの花をつけた枝が風に揺れている。

その姿のなんと美しいことか。

あたりには、ひんやりとした空気が満ち、すがすがしい。

「おお、秋! ついに苦難の夏が終わったのね」と、自分に向かってつぶやいたら、なんだかホッとしたような…。

ともかく今年の夏はいろいろあった。中でもつらかったのが膝を痛めたこと。

思えば、春到来の頃だった。

急な寒波で坂道が凍り、私は転倒し膝を打った。それが始まり。

右足をかばえば、左足も痛くなり、さらに腰も首もつらくなり、身体(からだ)がガチガチになった。

そのガチガチにはさほどの自覚はなかったが、出張施術を頼んだ「整体」の先生に言われた。

「ずっと、頑張って人生を送ってきたんだねえ」と。

そう言われれば、そんな気がしないでもなかった。

確かに、私は「生き抜くには、頑張る以外にどんな道があるの?」と思っていた人だったかも。

身から出たさびとはいえ、フリーターのシングルマザーだったし。

友人から「向かい風に突進していく女」と言われていたこともあったような。

けれど、那須に来て膝を痛めたことで、「整体」に出会い、私は、「身体の力を抜く練習」に熱心に励むことになった。

なんと数カ月にもわたって。

そして、白萩が満開を迎えたこの美しい日が、その練習の指導を受ける最後の日となった。

後は、学んだことを日々さりげなく、頑張らずに適当に、続けていれば大丈夫だと先生は言う。

もう身体の方がちゃんと分かってくれたようだ、と。

常に首や肩を柔らかく保ち、胸を開き、おへそをちょっと突き出し、顎を少し引いて視線をまっすぐに保ち、かかとを1ミリ外側に開くイメージで歩くこと。

そして、いつも自分で自分をいたわるように声を掛け、優しく扱うようにすべし、と。

確かに、自分の身体を自分でいたわらなくて、ほかにいたわってくれる誰がいるの?という心持ちで向き合うのが大事。

これからは、自分を叱咤(しった)激励するのではなく、限界のある自分を受容し、甘やかして暮らすことにしようと思う。

老いて家族を離脱した高齢者ばかりが暮らすここでなら、やっと手に入れた究極の自己中心を私も生きられるかも、と思う。

(ノンフィクション作家 久田恵)

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