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アルピニスト・野口健<19> 世界遺産になって富士山は「良い方向」へ

産経ニュース
富士山での清掃活動(野口健事務所提供)
富士山での清掃活動(野口健事務所提供)

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《1990年代から富士山を自然遺産として「世界遺産」登録を目指す動きが始まる。だが、ゴミが多いことや、世界的に見れば富士山の自然は珍しいものとはいえず、断念。信仰の場所などとして周辺地域と合わせ「文化遺産」に方針転換し、2013年に登録された》


あれから9年がたちました。当初、富士山が世界遺産になることはマイナス面が多いのではないか、と考えた僕の見方は結果として外れました。

それまで関係がギクシャクしていた関係自治体の連携はすごくうまくいっている。それは、一致団結してやらねば、という責任感だと思うのです。

また、世界遺産になることで増えると予想した登山者・観光客はむしろ減った。マイカー規制も拡大されたし、任意の保全協力金(1人1000円)を払う人も増えています。そのお金が環境保全のために使われることを「納得して」出す人が大半になった。これは大きな前進だと思いますね。かつてはこうした「規制」に反対していた地元の態度も変わりました。環境問題の専門職であるレンジャーも増えています。つまり世界遺産になったことで「良い方向」に行ったのです。


《ゴミ問題はどうなったか? 海外からのインバウンド客のマナーが一時問題化したが、今は新型コロナ禍によって表面上は収まっている》


コロナ前に中国や東南アジアからのインバウンド客の「ゴミ捨て」がひどかったことがあります。日本人ガイドが注意しても「それは強制か?」「罰金をとられるのか?」と開き直る外国人もいたようですね。

これはヒマラヤの例ですが、1960、70年代には欧米人のゴミが多く、その後、日本、韓国、中国…といったように時代ごとに変わっていったことがあります。例えば韓国隊は、著名な韓国人登山家が僕らの後にヒマラヤで清掃登山を始めると、その影響を受けてゴミを残さなくなった。富士山でもそんなことがあるかもしれません。

ただ、僕が思うのは、もっとガイドに強い権限を与えるべきではないか、ということです。アメリカの国立公園などでは、観光客のマナーが悪かったり、騒いだりしたとき、ガイドが「帰れ」と指示すれば、従わねばならない。日本のガイドにそんな権限はありません。パトロールをしているレンジャーでさえ弱腰に見えますからね。


《野口さんが富士山について警鐘を鳴らす、もうひとつのことは噴火への備えだ》


以前は僕も富士山の噴火に対してリアリティーがなかった。地元でも地震・津波による被害の方が、よほどリアリティーがあったでしょう。

意識が変わったのは、多くの犠牲者を出した御嶽(おんたけ)山の噴火(平成26年)からでしょうね。火山の種類は違いますが、あれ以降、多くの人たちが「富士山もいつ噴火してもおかしくない」と考えるようになった気がします。

地元自治体も、噴火が起きた場合の被害を想定したハザードマップをつくるようになりましたが、地元の観光業者や不動産業者などの心情としては今も、「噴火の話はしてくれるな」でしょう。そんな話が出て騒ぎになれば、別荘地の売れ行きが減ったり、価格が下がりかねない。つまり、噴火の話は地元ではタブーなのです。

でも、僕はタブーにしてはいけないと思う。「起きてから」では遅いのです。あらゆるケースを想定して万全の備えをしておくべき。噴火は1000年後かもしれないが、明日かもしれないのです。そして、いつか起きることだけは間違いありません。(聞き手 喜多由浩)

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