浅草物語

関東大震災 折れた凌雲閣、無事だった浅草寺

産経ニュース
関東大震災で折れた凌雲閣と、がれきが広がる浅草公園六区の周辺=大正12年9月(台東区立下町風俗資料館提供)
関東大震災で折れた凌雲閣と、がれきが広がる浅草公園六区の周辺=大正12年9月(台東区立下町風俗資料館提供)

秋に色づき始めたイチョウと、散策する修学旅行生の姿が目立つ9月の浅草寺(東京都台東区)。99年前の9月、この境内は関東大震災の被災者であふれていた。

「富士山を中心として関東の天変地異」「東京市中大惨状を呈す」「浅草十二階倒壊し 火災四十八箇所に及ぶ」

大正12年9月2日付の大阪朝日新聞は、1面トップでこう報じた。地震発生は1日午前11時58分。東京市内の新聞社の大半は火災などで発行不能となり、大阪発行の同紙は混乱の中で伝わってきた情報を刷った。見出しに浅草十二階こと「凌雲閣」の倒壊がとられたのは、それが日本一の高塔で、東京の象徴だったからにほからならない。

凌雲閣は8階から折れ、展望台付近にいた見物客十人あまりは1人を除いて死亡。続いて起きた火災で浅草区の96%が焼失し、死者と行方不明者は約3千600人に及んだ。その中で浅草寺は焼け残った。無残に折れた塔と、奇跡的に無事だった観音様。これを「物語」と呼ぶには凄惨(せいさん)すぎる現実が、震災によってもたらされていた。

逃げ惑う人々、六区焼失

「背負はれるだけ背負つてあえぎあえぎ走る人、子供を真中に夫婦で引きずり走る人、子供を両脇に引つかかへて走る人、老人や病人を背負つて走る人、けつまづいて後ろから来る人に踏みにじられる人(中略)本能的に生きようとするその人自身を超越した不思議な力で皆走つてるのですから、其人々の顔の緊張さ、逆上した目は血走つて釣り上がり、足は全く地についてはゐません」

火に追われ、隅田川の岸を逃げる人々の様子を、厩橋税務署の官吏が伝えている(内務省「大正震災誌」)。

昼食前で火を使う時間の揺れが被害を広げたのはよく知られている。ただ、凌雲閣に近い浅草公園六区の興行街では、民家とは異なる情景があった。エノケンこと榎本健一が、伝聞ではあるが六区の金竜館の観客と役者の様子を書いている。

「皆んな命からがら戸外に逃げだしたが、出し物がカチカチ山だから、逃げる観客の中に大きなタヌキやウサギも混っていた。(中略)他の芝居小屋からも、カツラをつけないお姫様やら、お侍、毛ズネまるだしの女形など、とんだ恰好の役者も混じって六区はたちまち大混乱」(自伝「喜劇こそわが命」)

榎本の筆致は軽快だが、揺れから半日過ぎた2日午前1時ごろには、六区も炎に包まれる。動物園としても人気があった浅草花屋敷では、火におびえた猛獣が暴れ出すのを防ぐため、トラなどを射殺した。東京の娯楽の中心だった街は、混乱と猛火の中に消えていった。

イチョウが守った?

逃げ惑う人々が向かった先の一つが、浅草寺だった。

焼け残った浅草寺に避難した人々(台東区立下町風俗資料館提供)

ここから隅田川を隔てて徒歩約20分の場所に、約3万8000人ともされる最大の死者を出した陸軍被服廠跡があった。逃げ込んだ人々の多くが火災旋風の犠牲となった。浅草寺の境内も大量の避難者で埋め尽くされ、炎上すれば大惨事は免れなかった。

演歌師で「パイノパイノパイ(東京節)」作詞者の添田知道は、上野公園で朝を迎えた。

「九月二日の夜が明けて、台東一望の焼け野原のなかに見た。十二階の半折と、観音堂の無事の甍(いらか)。すぐ堂裏の銀杏(イチョウ)の大木まで焼けたが」(随筆「子どもの時から」)

当時の浅草寺支院住職、壬生雄舜(みぶ・ゆうしゅん)は寺誌「大無畏(だいむい)」で、「観世音菩薩の妙智力」のおかげと説くかたわら、「境内の大きな公孫樹(イチョウ)が水気を吐き、自然防火壁にもなった」と指摘している。「浅草区史 関東大震災編」も、第五消防署浅草公園隊の「必死の努力」に触れた後、「高さ五十尺以上の公孫樹の境内に多くありし事」を焼け残った理由に挙げる。ほかに浅草公園が整備された明治17年に近くの建物を取り払い、周囲6カ所に水道消火栓があり、避難者が一致協力して延焼した火を消した-などと列挙している。

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