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さむらいの夢に生きる 「言い触らし団右衛門」司馬遼太郎(中公文庫)

産経ニュース

実家に近い泉佐野の樫井(かしい)というところに戦国武将、塙(ばん)団右衛門の墓がある。この小説の主人公だ。

出自は不明である。大男で力自慢。加藤嘉明に召し抱えられ、秀吉の朝鮮出兵で活躍したが関ヶ原の戦いでは指示に背いて一騎駆けで敵陣に駆け込み、嘉明のもとを去った。そのとき嘉明は「われは、ついに大将にはなれぬ男じゃな」とさげすむように笑ったという。

その後は雲水となり「鉄牛」を名乗ったが、再び戦の時が来る。大坂の陣である。豊臣方、徳川方の双方から誘いがあり、いずれに与するかを問われたとき、負け戦も承知で豊臣方を選び、こう語る。「さむらいとは、自分の命をモトデに名を売る稼業じゃ。名さえ売れれば、命のモトデがたとえ無(の)うなっても、存分にそろばんが合う」。そんな男だった。

冬の陣では本町橋の夜襲で名をあげた。夏の陣では紀州から北上する徳川方の浅野長晟(ながあきら)を討つべく二万の大軍の先鋒となって大坂城を出陣。だが一番槍の功名を岡部大学(則綱)と競って飛び出し、孤軍奮闘もむなしく討ち死にする。この樫井の戦いに敗れたことで豊臣方の命運が決まったともいわれる。

「言い触らし」とは自身の売り込みにたけていた団右衛門の人生そのものだった。折にふれ詩文をつくり、こんな辞世の詩を残している。

「中夏依南方/留命数既群/一生皆一夢/鉄牛五十年」。この詩を残すため彼は生きたのではないかと司馬さんは結ぶ。死に向かってほとんど偏狭的な情熱で一本気に生きた。

若いときは団右衛門の最期が無駄死にとしか思えなかったが今はそんな生き方も悪くないと感じている。この小説が教えてくれた。愛すべき男なのだ。近くなのに行ったことがなかった墓参りにも、一度行ってみようか。

大阪府泉南市 片木威(65)

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