後部ハッチの閉鎖とともに、車内が薄闇に包まれた。オイルと排ガスの臭いが漂うなか、左右向かい合う形で着席した人々の顔が浮かぶ。常に砂利道を走っているかのような履帯の振動を感じながら、駐屯地内の約4・5キロメートルを走行した。
9月5日、「防人と歩む会」の研修で長崎県佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地を訪ねた。日本版海兵隊と呼ばれる水陸機動団で水陸両用車AAV7に体験搭乗。広報担当者から「乗り心地は最低ですが、本当に乗りますか?」と事前に念押しされたが、参加者36人全員が迷うことなく搭乗を熱望。全長8メートル、25トンで「アルミの棺おけ」とも呼ばれる同車の乗り心地の悪さのほんの一端を体感した。
研修時の天候は曇り。これが真夏の炎天下であったら、動揺の激しい海上で長時間であったらと想像すると、その過酷さたるや生半可ではないだろう。しかも彼らの本番、つまり戦闘は長い洋上移動の後なのだ。同駐屯地では、AAV7やヘリが水没した際の脱出訓練を行う施設、中距離多目的誘導弾、水にぬれることを前提とした個人装備の数々を見学、隊員の説明を聞いた。また、訓練映像を視聴し、その過酷さに参加者は一様に胸を打たれていた。
南西諸島防衛の最前線にいる水陸機動団。副団長の茅野剛也1等陸佐は「ただで平和は守れない。抑止力として戦わずに勝てるよう訓練していることを国民の皆さんに知っていただきたい」と語った。
防衛費のGDP比2%へのアップについて、賛否の議論がかまびすしい。しかしながら、その前提となる日本の防衛を現場で支える自衛隊について、国民はどれほど理解しているだろう。私たちが安全安心な暮らしを享受している陰に、灼熱(しゃくねつ)の地で、酷寒の海で人知れず黙々と訓練を重ね、あるいは情報収集や対領空侵犯措置などの実任務についている隊員たちがいる。
「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」隊員たちへの感謝と敬意を感じないとしたら、「成熟した社会人」として、いかがなものだろうか。
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【プロフィル】葛城奈海
かつらぎ・なみ 防人と歩む会会長、皇統を守る国民連合の会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。