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奇跡の時間を忘れずに 「あふれでたのは やさしさだった-奈良少年刑務所 絵本と詩の教室」寮美千子(西日本出版社)

産経ニュース

あの赤レンガの重要文化財「旧奈良監獄」がホテルに生まれ変わると聞いて驚いたのは少し前のこと。私は歴史的建造物の再利用にまず目が向いた。そのとき出会ったのがこの本だ。奈良少年刑務所としての長い歴史を刻んできたことや受刑者たちの詩を知った。

憧れの奈良に移り住んだ著者は作家だ。丘の上の少年刑務所を訪れたのがきっかけだった。「社会性涵養(かんよう)プログラム」の「物語の教室」という授業の講師を依頼されたのだ。最初は戸惑った。重い罪で服役している受刑者たち。童話や詩で心を解きほぐすことができるのか。

しかも被害者にとって決して許せない加害者である。しかし想像を絶する貧困や激しい虐待など福祉や支援からこぼれ落ちてきたことを知り、「短くて美しい言葉を、繰り返し繰り返し体験してほしい」という担当者の熱意を聞いて心が動く。2007年から2017年まで、著者は夫とともに少年刑務所に通った。

絵本の朗読や朗読劇、詩作とこんなことで?と思う内容だが辛抱強く、じっくり取り組む。とりわけ詩作が「心の扉」を開いた。

「空が青いから白をえらんだのです」。「くも」と題した詩だが圧倒される。あるいは自分を「始末に負えない風船人間」と書く悲しい詩や「ボクは今 孤独な背中と夢の中」と書く繊細な詩。「よく笑う母が心の救いです」というほんわかする一編があり、「つぐない」と書いた詩には覚悟が見える。みんなに詩心があり、それは奇跡の時間だった。

やさしさが伝わってくる。著者はあの10年を振り返り、グループ・ワークとしてのこの授業を「座の力・場の力」と書いた。願わくばこのピュアな詩心をずっと持ち続けてほしい。

奈良市 横山京子(67)

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