「内閣のスポークスマン」「首相の女房役」と呼ばれる官房長官は、閣僚を取りまとめて、霞が関の官僚組織を牽引(けんいん)する能力が求められる。筆者は長く官房長官会見に出席するなどして、内閣の屋台骨を背負う歴代長官の〝個性〟を実感してきた。
菅義偉前首相は歴代最長、7年8カ月も官房長官を務めた。存在感は大きく、会見で発する言葉も重かった。想定外の質問に対する対応にも、菅氏らしさがあった。
前任の官房長官である民主党の藤村修氏は事前通告がない質問にはすぐ、「私は知りません」と答えたが、菅氏は記者が最近執筆した記事を秘書官らに調べさせ、事前に綿密なレクを行っていたようだ。
筆者はある日、韓国側が中欧の教科書に日本海ではなく「東海」の名称を記載させようとしていた件を聞いた。
菅氏はすぐに答えず、手元のファイルをチェックして、その事項の記載がないことを確認すると、ジロリと会見場で待機していた秘書官たちの方に視線を向けた。秘書官の1人は焦った表情で、「そこまではカバーできません」と言わんばかりに、頭を左右に振っていた。