形見の長靴、支えに前へ 紀伊半島豪雨11年で新宮の中平史都さん

産経ニュース
「けいと」と書かれた弟の長靴を手にする中平史都さん=和歌山県新宮市
「けいと」と書かれた弟の長靴を手にする中平史都さん=和歌山県新宮市

平成23年の紀伊半島豪雨で、和歌山県新宮市の会社員、中平史都(ふみと)さん(34)は両親ときょうだいの計5人を亡くした。きょうだいの形見はなかったが、昨秋、当時7歳だった弟の名前が入った長靴が見つかり、「一生持っていたい」と大切にしている。9月で豪雨から11年。家族の形見を支えに、前を向いて生きる。

史都さんの実家は、29人の死者・行方不明者が出た同県那智勝浦町にあった。高校卒業後、東京で会社員をしていた史都さんに「家族と電話がつながらない」と同じ町内に暮らす伯母から連絡があったのは11年前の9月3日夜のことだった。

数日間、電話し続けたものの通じず、同町までいく鉄道も不通。7日ごろにJR白浜駅(同県白浜町)に何とかたどり着いたが、気が動転してどうやって行ったか覚えていないと振り返る。

実家があった一帯は、尋常ではない水の量で、家もなくなっていた。そんな惨状を目にしても、家族はどこかに生きていると感じたが、家族を捜すため、「見たくない」と思いながらも遺体安置所に毎日通った。

翌月にかけて母親の澄子さん=当時(46)、妹の百音(ももね)さん=同(13)=と彩音(あやね)さん=同(14)、弟の景都(けいと)君=同(7)、父親の幸喜(こうき)さん=同(45)=の順で遺体が見つかった。9月4日未明に町内で発生した土石流で犠牲になったとみられる。

それでも家族はいると考え、母親に電話した。「なんで出ないのか」と思ったという。

「宝物見つけた気分」

数カ月間、新宮市にある母方の祖父母宅と東京を行き来していたが、東京での会社員生活を再開。「仕事をしていれば悲しい思い出を振り返らなくて済む」と仕事に集中し、1人にならないよう休みの日も同僚と一緒に過ごした。

2、3年経過して気持ちは落ち着いてきたが、現実を受け止め、逆につらくなった。29年春、東京の会社を辞めて新宮市の祖父母宅に移り、地元で就職。自宅で5人の遺影がある仏壇に手を合わせている。

つらい思いを抱える中、昨年4月、新宮市で行われた東京五輪の聖火リレーで最終ランナーを務めた。快走を支えたのは母親の形見の結婚指輪。ネックレスに通して走った。「一つ山を越えたようで、ふっと身が軽くなった」という。

昨年9月中旬、家族の遺品を見つけるため、実家があった周辺を重機で捜索していた伯父で建設会社役員の敦さん(63)が弟の景都君の長靴を見つけた。サイズは19センチ。靴の中とかかとに母親の字で「けいと」と書かれてあった。

史都さんは「宝物を見つけたような気分。景都が来てくれた」と喜ぶ。長靴は母親の指輪と父親のライターに続く3つめの形見となった。

まだ独り身だが、いずれは結婚して子供を育て、中平家をつないでいきたいという思いがある。「子供には紀伊半島豪雨の記憶を伝えていきたい」と語った。(張英壽)

紀伊半島豪雨 平成23年8月30日~9月5日、台風12号による記録的大雨で和歌山、奈良、三重の3県で計88人が死亡・行方不明となった。山の斜面が地盤ごと崩れる深層崩壊や、大量の土砂が川をせき止める天然ダムが多発。気象庁が25年に「特別警報」を創設する契機となった。

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