米ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は26日、ロシアの反対で最終文書が採択されず、決裂に終わった。岸田文雄首相は自身が掲げる「核兵器なき世界」の実現に向けた機運を高めるため、日本の首相として初めて会議に出席し、高官を派遣して交渉に当たらせるなど異例の態勢で臨んだが、再び厳しい現実に直面している。
「ロシア1カ国の反対により、コンセンサス(全会一致)が成立しなかったことは極めて遺憾だ」
首相は27日、公邸からオンラインで記者団の取材に応じ、悔しさをにじませた。同時に「責めはロシアが負うべきでNPT体制の問題ではない」と指摘。最終文書にロシア以外は反対しなかったとして、「NPTの維持、強化が国際社会全体の利益であるとの認識を多くの国が共有している証左だ」とも語った。
首相は1日に米ニューヨークの国連本部で開かれた再検討会議で演説し、核兵器の不使用や核戦力の透明性向上を訴えた。不透明な核管理体制が批判される中国を念頭に、兵器用核分裂性物質(FM)の生産状況に関する情報開示なども求めていた。
首相が自身の出席にこだわったのは、ウクライナに侵攻したロシアが核使用をちらつかせるなど、「核軍縮・不拡散をめぐる環境はより厳しくなっている」からだ。外相として出席した2015年の前回会議で最終文書が採択されなかった苦い経験もあった。
このため、会議中盤から外務省の山田重夫外務審議官ら幹部を現地に派遣し、交渉に当たらせた。終盤には武井俊輔外務副大臣も現地入りした。
9月の国連総会では包括的核実験禁止条約(CTBT)フレンズ会合が外相級から首脳級に格上げして開催される。政府は11月には広島市で国際賢人会議を開催し、来年には先進7カ国首脳会議(G7サミット)も控える。首相は記者団に「『核兵器のない世界』の実現に向けた国際社会の機運を高め、現実的な取り組みを粘り強く進めていきたい」と改めて強調した。(岡田美月)
NPT決裂、ロシアが最終文書採択に反対 核軍縮の機運さらに停滞