アナログレコードの人気が再燃する中、東京・渋谷にある有名レコード店の経営会社が7月、東京地裁から破産手続き開始決定を受けた。渋谷の音楽文化を長年支えてきた代表店ということもあり、業界や音楽ファンに少なからず衝撃を与えた。しかし関係者は、新型コロナウイルス禍によって音楽に向き合う時間が増えたこともあり、「レコードの魅力は若い世代にも伝わっていて、近年のブームは単なるノスタルジーではない。市場の伸びしろはまだある」と指摘している。
世界有数の市場
帝国データバンクなどによると、破産したのは渋谷のレコード店「TECHNIQUE(テクニーク)」を経営するエナジーフラッシュ。テクニークは平成8年にレコードの通信販売を手掛け始め、その後、渋谷に実店舗をオープン、渋谷を代表するレコード店の一つとして知られていた。
テクニークは特に「テクノ」「ハウス」などと呼ばれるダンス音楽を中心とした海外からの輸入盤の豊富な品ぞろえが有名で、音楽ファンのみならず、国内外のミュージシャンやDJなどが足しげく通った。しかし、近年は売り上げが伸び悩んでおり、約20年店舗を構えていた渋谷の雑居ビルから撤退。2度にわたり展開した渋谷パルコの期間限定店舗は今年に入り終了した。その後は通販専門となっていたが、現在、通販サイトも停止している。
業界関係者は、音楽ライターやミュージシャンとして知られた初代経営者が数年前に経営から手を引き、以前からのスタッフらが店を継いだが「なかなかうまくいかなかったようだ」と話す。
テクニークがオープンした1990年代の渋谷は、あらゆる場所にレコード店が軒を連ねていた。世界中でCDのミリオンセラーが連発したこの時代にあって、渋谷にはアナログに価値を見いだすファンが国内外から詰めかけ、世界でも有数のレコード市場を形成していたとされる。テクニークはその一翼を担っていた。
配信で「終わった」
しかし、音楽バブルから一転、今世紀に入るとCDはもちろんレコードの売り上げは下降、渋谷からも有名店が徐々に姿を消していった。そんな中、平成27年には米アップルが定額制の音楽ストリーミング配信サービス「アップルミュージック」を日本で開始。他社も次々参入した。
「自分たちの業界は終わったと思った」と振り返るのは、アジア最大規模のレコードプレス工場を持つレコード製造「東洋化成」(東京)の本根誠さん。配信による音楽視聴が定着する中で危機を感じたという。
しかし現実は違った。日本レコード協会によると、アナログレコードは平成24年の国内売り上げが約45万枚だったが、令和3年には約190万枚と4倍以上に。配信が国内に上陸した27年以降も売り上げが伸び続けている。同じ10年間で売り上げ枚数が半減したCDとは対照的な結果となった。
若い世代巻き込み
本根さんは、レコード人気再燃は「単なるノスタルジーではない」と断言する。若いミュージシャンがレコードならではの音質の良さに回帰し、若い音楽ファンまで魅力が伝播。レコードになじみのない世代が手に取るようになったことで、新たな市場が開拓できたとみる。