人口減少に伴い、労働力が不足すると予測されている。有効求人倍率は、業種によって差があるものの全体としては増加傾向だ。実際、「人手が不足している」との声もよく聞かれる。この傾向は当面続くものと予測され、人員が増えなくても問題なく業務を遂行できる仕組みの整備が急務だ。放置すると事業を継続できなくなる危険性さえある。
業務を効率化するために、テクノロジーを活用する取り組みはこれまでも進められてきた。だが、「20%の業務量削減」程度だと、5人分の仕事を4人で行うぐらいの改善にしかならず、労働環境の悪化にもつながる。外部業者へ委託していたとしても、業務がなくなっているわけではない。従来までのやり方を踏襲するのではなく、手作業をゼロにする方法がないのかに知恵を絞る必要がある。手書き用紙や現金の取り扱いをやめるなど、人手の入る余地を徹底してなくす。そのためのツールとしてテクノロジーを活用する。他社や他業種での事例が参考になる場合も少なくない。米グーグルやアマゾン・コムなら、どのような方法で事業や業務を行うだろうか、と発想を飛ばすことも役に立つ。
従来のやり方を変えようとすると、業務を行う現場からは文句が出る。顧客や取引先からクレームを受けたり、瞬間的に売り上げが下がったりするかもしれない。大前提は、サービスの本質的な価値を落とすことなく、周辺業務をそぎ落とすことだ。事業責任者は、改革の必要性・方向性・進め方を見極めて、従業員をはじめ顧客や取引先に対して、明快に説明できる準備を整えなければならない。そして、一度決めたら徹底して取り組む意志が必要だ。
単なるシステム化を超え、仕事のやり方を変革して事業の継続性を確保することで、テクノロジーを活用したトランスフォーメーションが実現できる。人手不足が引き金になるのは本意ではないが、これを機会と捉えて着実に手を打っていきたい。
(デジタル・コネクト代表取締役 小塚裕史)
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こづか・ひろし 京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、平成31年にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタルトランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。58歳。兵庫県出身。