日曜に書く

論説委員・藤本欣也 戦没者遺族の次代への伝言

産経ニュース

27年前の1995(平成7)年3月、私はミャンマー(旧ビルマ)中部の村で汗だくになってカメラを構えていた。

戦後50年の節目に当たったこの年、日本政府が派遣した戦没者遺骨収集団に同行し、遺骨収集作業を取材していたのだ。

帰らなかった遺骨

「かわいそうにな、こんなになっちまって…」

日本兵の遺体が投げ込まれたという井戸を発掘し、ようやく見つけ出した頭蓋骨の周りに、収集団のメンバーが集まってきた。ビルマで戦死した兵士の息子たちや、ビルマ戦線から帰還した旧将兵たちだ。

みんなそれぞれ、泥のへばりついた頭蓋骨を、まるで父親や戦友の遺骨のように見つめ、さすり、泣いていた。

その中に福井県出身の小辻康雄さん=当時(60)=がいた。父親はインドとの国境付近で戦死し、終戦の翌年、白木の箱になって家に帰ってきた。12歳だった小辻さんが箱の中をこっそりのぞくと、遺骨ではなく、石ころ1つが納められていた。

「ビルマで同じように亡くなった方と、日本に帰ることができるのは感慨無量。日本の平和な姿を見せてあげたい。あなたたちの死は、決して無意味ではなかったってね」

父親が戦死した地域には立ち入ることができなかった小辻さんだったが、27年前の取材に、こう語ってくれた。

戦友から遺族へ

戦後、小辻家には4男1女の子供たちが残された。母親は病院の事務を始めたが、どん底の暮らしが続いたという。

長男の小辻さんが「高校に進学したい」と話したとき、父親の遺影の前に座らされた。

「お前は普通の子じゃない。下にまだ4人のきょうだいがいる。そんな余裕がないのは分かっているはずじゃないの…」。そう諭(さと)す母親も泣いていた。

京都の名刹(めいさつ)、竜安寺の境内に白いパゴダ(仏塔)が建っている。ビルマの戦場を生き延びた竜安寺の住職や戦友会メンバーの寄付を基に、1970(昭和45)年に建立されたものだ。

パゴダの前でほぼ毎年行われてきた慰霊祭には、今年88歳になる小辻さんもたびたび参加した。この慰霊祭は、戦友や遺族が苦しかった時代の話を涙ながらに語り合う場でもあった。

慰霊事業を長年支えた戦友の一人に、山田武司さんがいた。11年前に91歳で亡くなった。

「戒名は付けてくれるな」。それが遺言だった。ビルマの地にたおれ、遺骨も戒名もない戦友たちがいることを思ってのことだ。実際、竜安寺にある山田さんの位牌(いはい)には、姓名4文字が記されているのみである。

新型コロナウイルス感染拡大前の2019(令和元)年10月に行われた慰霊祭には、24人が出席した。全て遺族だった。

かつて数百人いた戦友は年々減り続け、ついに遺族だけが営む慰霊祭となったが、小辻さんら戦没者の子供の世代も今や70~80代がほとんどだ。

子供から孫へ

厚生労働省によると、海外の戦没者は約240万人。3月末現在、いまだに収容されていない遺骨は約112万柱に上る。ミャンマーだけでみると、戦没者約13万7千人のうち、未収容の遺骨は約4万6千柱ある。

白木の箱の中で小石がコロコロ転がる音が忘れられないという小辻さん。戦後50年に訪問した後もミャンマーに3度赴いたが、父親の遺骨を手にすることはかなわなかった。

「戦争へのさまざまな思いがあるのは、私たちの世代まででしょうね」。自分の子供たちに戦中・戦後について詳しく話をすることはなかったという。

現代といえども、決して戦争と無縁の時代ではない。ロシアによるウクライナ侵攻が連日、報じられている。しかし―。

「日本の場合、戦争当時と今では状況が全然違うので(次の世代に)伝わらないのです」

次世代である戦没者・戦友の孫たちはどう考えているのか。山田さんの孫で、東京都内の中高一貫校で歴史を教えている山田耕太さん(44)に聞いた。

「確かに、日本人にとって戦争は約80年も前の話になりました。でも、はるか昔の話ではない。戦争を経験していない私たちは、何をどのように継承すればいいのか。歴史の教師としての私の課題でもあります」

今後、慰霊祭にも出席し遺族の話に耳を傾けながら答えを探していきたい、と話す。

全国津々浦々、戦没者の子供や孫たちは、同じ難問を胸に、今年も8月15日を迎える。(ふじもと きんや)

  1. 佐々木蔵之介が結婚!お相手は一般女性「早々に『完敗宣言』」

  2. 中露〝蜜月崩壊〟習主席がプーチン氏見捨てた!? 「ロシアの敗北は時間の問題」中国元大使が発言 インドの浮上で変わる世界の勢力図

  3. 残りあと5話!NHK朝ドラ「ちむどんどん」最終週あらすじ やんばるで食堂を開きたいと考える暢子(黒島結菜)、東京からは房子(原田美枝子)が…

  4. 【ニュース裏表 平井文夫】「国葬欠席」のSNS掲載 批判相次ぐ立民の蓮舫、辻元両参院議員 情けなく恥ずかしい…ジョージアの大使に教えられた死者への敬意

  5. 【ニュースの核心】習主席とプーチン大統領〝共倒れ〟も 中露首脳会談、連携協調も温度差 ロシアの手の内見透かす米国「核のボタン」事前の察知に自信