記者発

漫画「ちはやふる」が残したもの 文化部・本間英士

産経ニュース
「ちはやふる」の最終回を掲載した漫画誌「BE・LOVE」9月号
「ちはやふる」の最終回を掲載した漫画誌「BE・LOVE」9月号

競技かるたに青春のすべてをかける高校生たちを描いた末次由紀さんの漫画「ちはやふる」が1日に完結した。平成19年から15年連載され、アニメや実写映画にもなっただけに、知る人は多いだろう。漫画担当の記者もこの機に全話読み、何度も目頭が熱くなった。素晴らしい作品だ。

同作は幼なじみの高校生3人が競技かるたの最高峰「名人」「クイーン」を競い合う群像劇。努力と友情と恋の青春物語の裏側には、苦しみや嫉妬といった、小倉百人一首の歌が詠まれた昔と変わらない人間のすべてが詰まっている。登場人物たちは脇役に至るまで、理想の「自分」になるために必死でもがく。その姿がまぶしく、願わくば10代の頃読みたかった。学校の図書室などにもぜひ置いてほしい。

強調したいのが、大人の読者も共感できる点。還暦近くの男性選手は衰えを痛感しながらも名人の座を渇望し、熱い勝負に身を焦がす。元クイーンの女性選手は母として2児を育てつつ、再び戦いの舞台に舞い戻る。年齢や性別を超えて対戦できる競技かるたならではの描写である。酸いも甘いも経験した成人視点からも物語は紡がれ、深い奥行きを持つ。だからこそ大人の読者も感情移入できるのだ。

同作を契機に競技を始めた人は多く、海外の愛好者も増えた。30年には世界大会も始動。決戦の地である近江神宮近江勧学館(大津市)を訪れるファンは絶えない。令和元年には後進育成や大会運営支援を目的とした「ちはやふる基金」も設立。同作が残した社会的影響は大きい。

名作と呼ばれる漫画は、題材にした競技の愛好者を育んできた。現在の将棋人気の立役者は藤井聡太五冠だが、その背景には、傷ついた高校生棋士の成長を温かな目線で描く「3月のライオン」(平成19年連載開始)などが培ってきた〝裾野の広さ〟がある。

「和」の競技をテーマにした漫画には読み応えのある作品が多い。近年では、平凡な女子高生がなぎなたの魅力に引き込まれる「あさひなぐ」や、筝曲(そうきょく)部が舞台の青春群像劇「この音とまれ!」がその好例。普段はこの種の漫画をたしなまない人にも、ぜひ読んでほしい。作品からほとばしる熱量と迫力に、きっと驚くだろうから。

【プロフィル】本間英士

平成20年入社。前橋、大津支局などを経て文化部。放送・漫画担当。書評「漫画漫遊」、アニメなどを扱う「ポップカルチャー最前線」を執筆。

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