繊細できめ細やかな性格、そして、ファン思いだからこその準備だ。パドレスのダルビッシュ有投手(35)は今季、先発のウオーミングアップとキャッチボールのときは、イヤホンをつけている。ブルペンで投球練習を開始する直前まで、白いワイヤレスイヤホンを装着。珍しい光景なだけに、何か理由があるはずだ。
「試合前、ファンの方は先発投手の事情を知らないじゃないですか?」
ダルビッシュはそういって、笑みをたたえながら理由を明かしてくれた。「先発投手の事情」とは、登板日はとてもナーバスになる、という意味だろう。試合の勝敗を大きく左右するのが、先発投手。仮にKOで早期降板になれば、中継ぎ投手陣への負担を強いることにもなる。中4、5日の登板間隔で出場するのが、先発投手。つまり、5日か6日に1度だけ、チームに直接的な貢献ができる日だ。だからこそ、先発直前はプレッシャーを感じる。そして、集中力を高め、試合に〝入りこんでいく〟タイミングだ。だからこそ-。
「サインくださいとか写真、撮ってくださいとか(客席のファンから)いわれる。うれしいことなんですけど。気にしちゃうというか、断るのも…ムード的に返すのも嫌だし、すごく(自分自身に対して)気持ち悪い」
もちろん、ファンの声援やサインの求めには応じたい気持ちはある。だが、先発直前は別問題、というわけだ。約30分後に迫る先発マウンドに備え、緊張感が高まる時間帯でもある。そんなファンの思いに応えられない申し訳なさを感じながらダルビッシュは、心苦しかったという。
「(イヤホンをしてファンの声が)聞こえていなかったら、そういう罪悪感がないじゃないですか。だから、音楽を聴いて、ただもう集中しています」
気分を上げるために音楽を効く効果もあれば、それ以上に周囲の音を遮断して、投球のことだけに意識を集めたい。そして、ファンの声に対してに〝決して無視しているわけじゃないですよ〟というメッセージでもある。
7日(日本時間8日)のドジャース戦では打線の援護なく5敗目(10勝)を喫したが、メジャー最高勝率(試合前時点で・692)の相手に対して、6回2失点の好投。トレードでソト(前ナショナルズ)や守護神ヘイダー(前ブルワーズ)を獲得したパドレス。シーズン終盤、そしてポストシーズンでダルビッシュの活躍に期待したい。(山田結軌)