事業活動により強制労働や差別など、人権を侵害するのを防止するため、経済産業省は5日、企業が順守すべき指針案を示した。企業の人権に関する指針案を政府が具体的に提示するのは初めて。主要先進国では、企業に人権尊重を求める動きが加速しているが、日本は対応が遅れていた。同日開催された関係省庁会議で報告した。広く意見を募集した上で、今夏中に政府として取りまとめる。
関係省庁会議で、中谷元首相補佐官は、「広く国民の皆さまからご意見をうかがうことで、より良いガイドライン案になることを強く期待する」と話した。
指針案は、日本で事業活動するすべての企業に対し、人権方針の策定を求める。自社や取引先で生じている、または生じそうな人権侵害を特定して予防・対処する「人権デューデリジェンス(DD)」を定期的に繰り返し、人権DDの効果や評価を公表することも求める。
経産省によると、指針案は国連の指導原則などを踏まえ、国際基準に沿ったものとした。強制労働など深刻度が高い問題から、優先的に取り組む必要があると指摘。自社だけでなく、間接的な取引先も含めてサプライチェーン(供給網)全体での取り組みを求める。
ただ、人権侵害が確認されても即時に取引停止を決めるのではなく、停止による他の問題も考慮すべきとし、取引停止は最終手段とするとした。指針案には法的な拘束力がなく、実効性があるものにするための取り組みが求められる。
米国では6月に、新疆ウイグル自治区からの物品輸入を原則禁止する法律が施行されるなど、海外では規制が進む。人権侵害に加担したとみられれば、国際的な供給網から締め出される可能性もある。昨年1月には、ファーストリテイリングが展開する衣料品店「ユニクロ」のシャツの米国への輸入が差し止められる事案が発生しており、日本企業からも指針整備を求める声が上がっていた。