«買物袋持参率80・4%»。7月のある日、取材の合間に立ち寄った神戸市内のスーパーで、1枚の張り紙に目がとまった。政府がレジ袋の有料化を全国の小売店に義務づける制度が始まってから、7月で2年。それまで当たり前のようにレジ袋を受け取っていたため、当初は慣れなかった有料化だが、意識の変化の表れかマイバッグを持参する人が増えたように感じる。ただ、制度は実際にプラスチックごみの削減につながっているのか。レジ袋の売り上げはどれくらいあるのか。それらはどのように使われているのか。有料レジ袋をめぐってさまざまな疑問がわいてきた。
辞退率は大幅増
スーパーマーケットなどの業界団体「日本チェーンストア協会」によると、全国のスーパーにおけるレジ袋辞退率は、令和3年度で80・26%。もともとスーパーでは脱レジ袋の取り組みが進んでおり、制度開始前も5割程度はあったが、義務化によって大幅に増加した。
レジ袋有料化はプラごみの削減や、プラごみが環境に与える影響についての意識を高めてもらうことが狙いだ。容器包装リサイクル法関連省令が改正され、2年7月に始まった。
いまなお、レジ袋有料化の環境保全への効果は限定的との指摘もあるが、同協会の担当者は「少なくとも買い物客が、プラごみなど環境問題に対する当事者意識は持つようになったのではないか」と指摘。同協会では、各社にレジ袋販売の収益を環境保全活動などに寄付するよう呼びかけており、これも環境問題の改善につながっているとみている。
イオンの収益年間1億円超
では、その収益はどれくらいあるのか。
スーパーを管理運営する大手流通会社「イオン」によると、3年度のグループ全体でのレジ袋収益金は約1億3700万円に上った。グループ企業のうち、記者が店頭で張り紙を見つけた「コーヨー」や「マックスバリュ」などを近畿で約80店舗展開する「光洋」だけでも、約590万円の売り上げがあった。
袋の大きさなどによって値段は異なるが、1枚数円の袋も積み重なれば大きな金額になるということだ。イオングループでは、地域でのさまざまな環境保全活動に役立てようと、収益金を各地の自治体や団体に寄付している。
例えば光洋は昨年6月、環境保全活動を推進する兵庫県尼崎市の基金に寄付。尼崎市はこれを活用し、猛暑となる7月から8月にかけて、市民らが打ち水を体験するイベントを開き、300人以上が参加した。
プラごみ削減へ次の一手は
イオンは、辞退によって削減されたレジ袋は年間約32億枚に上り、これによって二酸化炭素約9万9千トンの排出を削減したとしている。さらに消費者の意識が向上し、有料化による収益を使った環境保全活動も進んだ。レジ袋有料化制度が始まって2年、少なからず効果はあったようにみえるが、その評価はどうなのか。
「スーパーなどの小売店は国民が使い捨てプラスチックと接する最前線。そこで有料化し、辞退させることはプラごみ削減に効果的だ」。海洋物理学を専門とし、海洋ごみを研究する九州大の磯辺篤彦教授(58)はこう語る。
プラスチック製品に占めるレジ袋の割合はそう多くなく、環境負荷を減らす効果としては限定的だとの指摘もある。だが、磯辺氏は世界全体の水辺のプラごみのうち約14%が、レジ袋のようなプラスチック製バッグだったという研究結果を挙げ、「こうした研究や調査に基づく科学的根拠を社会へ伝えていく必要がある」と強調した。
前出の日本チェーンストア協会の担当者は、「レジ袋辞退率をこれ以上伸ばしていくのは難しいのではないか」と脱レジ袋の限界を指摘し、こう訴える。「有料化で消費者の意識も変わり、できるところまでやった。ここからまた国などが新たな具体策を出していく必要があるのではないか」(喜田あゆみ)